話すべきこと

 教室に戻ると、瞳の機嫌が最悪だった。話しかけようと思ったら先生が来てしまったため、俺は仕方なく席に座る。じゃあ次の休み時間に、と思って授業が終わってすぐに瞳の席に向かう。

「瞳」
「……なあに」

 うわ、ピリピリしてる。俺は苦笑した。

「今日、一緒に帰らないか? 二人で」
「えっ? 二人?」
「…ああ」

 瞳の顔がぱっと輝く。ずきずきと胸が痛みだし、ちゃんと笑えているかどうか不安になった。…そして、放課後が憂鬱になる。俺は今日、ちゃんと話さなければならない。

「…ごめんな」

 俺は瞳に聞こえないような声で、小さく呟いた。














 放課後である。すぐに帰る支度をして、瞳と共に学校を出る。瞳が腕を組んで楽しそうに笑っている。周りから見たら付き合ってるように見えるだろう。……優治先輩と一緒に歩いていてもこういう風にくっついて歩くことはできない。少しだけ悲しくなった。人前でくっつけなくても、俺は優治先輩と一緒にいたい。

「ねえ、さっき何話したの」

 ぎくりとする。俺の考えていることが分かったのだろうか。瞳はじっと俺を見つめ、声のトーンを落として訊ねてきた。

「何って…ただの世間話だよ」
「じゃあ何で教室で話さなかったの?」
「話しにくいだろ、あんな静かなところで」

 嘘は言っていない。実際あそこで話せと言われたら、本当にただの世間話でもちょっと嫌だ。

「……そっか」

 瞳は納得していないような顔をしてぼそっと呟く。そして俯く。

「……ヒロくん」
「…ん?」
「私…」
「うん」
「……っやっぱり、なんでもない」

 ……何だ?
 一瞬泣きそうに顔を歪めた瞳に動揺したが、瞳は何もなかったように笑った。

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