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 一瞬これが現実なのか、それとも俺の都合のいい幻覚なのか分からなかった。呆然とする俺から視線を外さずに近くまで来ると、座っている俺と目線を合わせた。

「……久しぶり」
「ゆ……優治先輩…」

 少しだけ声が震える。優治先輩は優しげに目を細めて、俺の頭をポンと叩いた。頭に残る温もりがこれが現実だと教える。

「話があんだけど、ちょっといいか?」
「あ、はい」

 ここでは話しにくい内容だろう。皆こっちに注目してて気まずいし…。普段注目されてるだろう優治先輩はそこまで気にしてなさそうだけど。
 机に手を付いて立ち上がると、俺を呼ぶ声が聞こえた。「ヒロくんっ…」ちらりと視線を向けると、瞳がぎゅっと眉を顰めてこっちを見ていた。

「……ヒロくん」

 切なさを含んだ声にぎゅっと胸が痛くなる。瞳の名前を呼ぼうとした時、愛が溜息混じりの声で言った。

「瞳、止めなって……。大樹、さっさと行きな」
「愛…、ありがとう」
「悪いな」

 瞳は愛に任せることにしよう。愛は俺と優治先輩の言葉に困ったように笑うと、手で俺たちを追い払うような動作をした。瞳は愛に両肩を掴まれ、俯いている。
 俺と優治先輩は皆に注目される中、教室を出た。

















 次の授業までそれほど時間がなかったため、近くの空き教室に入ることにした。ドアを閉め、優治先輩は教室の窓の外を確認すると、俺をぎゅっと抱きしめた。ドキッとして顔が熱くなる。

「ゆっ優治先輩!」
「大樹…会いたかった」

 ぼそりと呟いた言葉に胸が苦しくなった。無意識に俺もですという言葉が出てきた。そしてはっとする。最後に会ったのは告白をされた日だ。つまり俺は優治先輩に何も気持ちを伝えていない。

「あ、あの」
「ん…?」

 そっと俺を放した優治先輩は笑みを浮かべて俺を見つめる。ドキドキと鳴る心臓の音に負けないように、俺は自分の想いを打ち明けた。

「俺……優治先輩が、好きです」

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