久しぶり

「めっちゃ美味しそうじゃん! 食べていい!?」
「だっ」

 俺は慌ててクッキーを手で隠す。

「駄目だ!」
「ええー、一枚くらいいいじゃん」

 ケチ、と言いながら郁人の顔がむっと顰められる。うう、これが普通のクッキーだったら何枚でもあげるのに。

「死にたくなかったらこれを食べるな」
「へ? 何言って…」

 訝しげな郁人だったが、俺の顔色を見て、これが普通のクッキーではないと気づいたらしい。顔を引き攣らせた。

「え、ええーと。これは…」
「とある人から貰った殺傷力のあるクッキーなんだ…」
「そんなにヤバイの!?」

 郁人にこのクッキーを食べさせたら勉強どころではない。そして、俺も今食べたらちゃんと教えられるか分からない。俺はそっと一枚を袋に戻して隅に置いた。そして、郁人に分からないと言われたところを教え、風呂に入ったり歯を磨いたりして、一日が終わった。
 余談であるが、郁人は俺の目を盗んでクッキーを食べ、数分間抜け殻のようになっていた。














 数日が経った。
 テストもあと一週間ということで、いつもは騒がしい教室も、勉強モードに突入して静かだった。高校に入学してから、実力テスト以外のテストは初めてなので、皆緊張していたり不安に思っていたりするせいだろう。二回目のテストからちょっと気を緩める人が出て来るに違いない。俺もいつもそうだ。最初だけすごく良くて、テストを受けるたび右肩下がりになっていく。…でも、これからは気を緩めないようにしよう。成績優秀者上位二十人の名前が廊下に張り出されるので、それに載るように…。
 よし、と英単語帳を開いた時だった。ガラッと音がして、皆が一斉に顔を上げる。そこにいた人物を目にして、俺は間抜けな顔を晒して単語帳をぼとっと落とした。

「――よう、大樹」

 音のない教室。俺を真っ直ぐに見つめると、約二週間ぶりの優治先輩がにっと笑った。


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