勉強

 それから真由ちゃんに優治先輩の家のことをもう少し詳しく聞いて、俺は家へと帰った。真由ちゃんは俺を送ってくれた車に乗らなかったが、別れた時に呟いた言葉。

『精々頑張りなさいよ』

 思い出して顔を緩める。そんな俺を郁人が不思議そうな顔をする。口には米粒がついていた。郁人…お前…そんな漫画みたいに米粒つけやがって…。俺はぽんと郁人と頭に手を乗せた。

「へ?」
「お前が元気で良かったよ」
「…え? えーと…うん」

 郁人は沢山のクエスチョンマークを頭上に出すが、俺は気にせずご飯を掻き込んだ。母さんがゆっくり食べなさいと注意してきた。俺はもぐもぐと咀嚼をして、米を飲み込む。…真由ちゃんもああ言ってくれた。郁人も応援してくれている。――優治先輩は、家柄も顔も普通の俺を好きになってくれた。……頑張ろう。俺はぐっと小さくガッツポーズをした。












 よし、次はこれだ。
 俺は自室の机の上に置いたクッキーを見つめる。見つめるだけで尋常じゃない汗がでてくるんだけど…。俺は深呼吸した。因みにこの深呼吸は今ので十回目だ。それでも全然リラックスできない。
 夕飯を食べてすぐは危険だし、かと言って食べる前だとそれはそれで危険だ。だから夕飯を食べてから結構時間が経った今、これを食すのである。

「……よ、よし」

 俺は一枚掴むと、震える手を叱咤しながら口へ運んだ――瞬間、ドアがノックされた。吃驚してクッキーがぽとりと手から落ちていく。

「兄ちゃん、ちょっといい?」
「あ、ああ。いいよ」

 郁人だ。俺が入室を許可すると、ドアが開いて郁人が入って来る、体を郁人に向けた。

「どうしたんだ?」

 言いながら、郁人が持っているものを見て納得する。筆記用具、電子辞書、ノート、そして教科書。

「何か分からないところでもあったか」
「うん」

 郁人の学校もテストが近いから、慌てて勉強しているのだろう。
 近づいてきた郁人は、机の上の物を見て、あれ、と口にする。

「チョコクッキー?」

 …はっ! やばい、見つかった!


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