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「……弟の孝仁さんがそういう状態だから、優治お兄様が家を継ぎ、結婚して子を作らなければいけないの。…でも優治お兄様は結婚に関しては何を言っても首を縦に振らないわ」
「好きな相手じゃないと…ってこと?」
「それもあるけどね、…優治お兄様は、男性の方しか好きになれないから…」

 悲しげに目を伏せる真由ちゃん。驚かなかったわけではないが、胸にすとんとその事実が入ってきた。そもそも優治先輩との出会いは、京宛のラブレターが机に入ってたからだ。その時点で京という「男」を好きになっている。そういえば女性とそういう噂も聞かないし。
 ……真由ちゃんは、叶わないと知っていて、優治先輩を好きになったのか。かける言葉が見つからなくて、俺は紅茶を口に含んだ。

「何回もお見合いをするけれど、結果は見えているわ。それはおば様方もそうでしょうけど」
「無理矢理婚約…とかはないの?」
「ないわ。おじ様は優治お兄様に甘いから」

 優治先輩に甘い…。俺は記憶の中から桜田惣次郎の顔を引っ張りだす。厳しそうだったけど…真由ちゃんが言うならそうなのか?
 …あれ、でも。俺はぱっと浮かんだ疑問をそのまま口にする。

「じゃあ、何で見合いをするんだ? メリットよりデメリットの方が多そうだけど…」

 万が一優治先輩が相手を好きになるかもしれないが、破談になると色々問題があるんじゃないだろうか。例えば関係悪化とか…。

「お二人は約束をしているの」
「……約束?」
「高校を卒業する前に本気で好きな相手を見つけ、おじ様に認めさせることができたなら、結婚はしなくていい。でもできなかったら、おじ様が探した相手と結婚する…という約束よ」
「えっ…」

 高校卒業までって…もうそんなに時間がないじゃないか。真由ちゃんは動揺する俺を見て、小さく息を吐く。ぎろりと睨むように目を細めるが、以前までの棘はない。

「私、あなたが嫌いだわ」
「は、はい」

 分かってるけど、面と向かって言われるときつい。顔を強張らせる俺だったが、口角を上げる真由ちゃんに目を丸くする。

「でも、あなたなら優治お兄様の隣を歩いてもいいかもね」
「えっ…」

 言われたことが一瞬理解できなかった。目を数回瞬いて、真由ちゃんの言葉をもう一度頭の中で復唱して。意味が分かって、俺は顔を緩める。

「それってつまり…」
「いいかも、と言っただけよ。いいとは言ってないから」

 ふん、とそっぽを向いた真由ちゃんの耳は少し赤かった。

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