4

「俺は……優治先輩が好きだ。これからも一緒に居たいと思う。だからそのために…隣に立つに相応しい人間になりたい。受け身じゃダメだってわかったんだ。……で、優治先輩の家のこと、全然知らないなと思って、まずそこから知ろうかと」
「なるほど」

 真由ちゃんは優雅に紅茶を一口飲んで、静かに呟いた。無表情だった顔に笑みを乗せる。不敵に笑う真由ちゃんに驚いて目を見開く。

「仕方ないわね、特別に私が教えてあげるわ」

 「光栄に思いなさい」上から目線の言葉だが、俺の目や耳がおかしくなければ、真由ちゃんの顔はいつもより優しげだし、声も柔らかい。

「……基本的なことは分かるわよね?」
「ああ…一応、軽くは調べては来たけど」

 俺は鞄からメモ帳を取り出し、付箋を貼っていたページを開く。桜田惣次郎――優治先輩の父親。誰もが知るブランド会社の社長だ。今までは服のみだったが、小物にも手を出しているようだ。そして桜田佳乃。優治先輩の母親。ピアニストで、世界中を飛び回って演奏をしているらしい。絶対音感の持ち主で、演奏はすばらしいとのこと。…俺は音楽のことは良く分からないが、凄いと思った。迫力があるというか、引き込まれる演奏だと感じた。この才能ある二人から生まれたのが優治先輩。一人っ子。

「……ということくらい」
「……まあ、大体その通りね。でも優治お兄様は、一人っ子じゃないわ」
「え?」
「弟がいるのよ。今年で中学生になるはずだった弟が」

 どくりと心臓が音を立てる。……なるはずだったって…。悪い予感にぎゅっと手を握りしめる。真由ちゃんは、ふう、と息を吐いた。

「言っておくけど、生きてるわよ。ただ、身体が弱くてね。学校は無理だと言われたのよ」
「…そんなに、悪いのか」
「外へは滅多に出られないくらいね」

 口の中が渇く。郁人の顔が浮かんだ。



[ prev / next ]

しおりを挟む

39/79
[back]