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煌びやかな廊下を通り、案内されたのは可愛らしい洋室。…まさかここは真由ちゃんの部屋じゃないかと思って訊ねると、肯定の返事が帰って来た。
「…いいの? 部屋に入って」
「帰りたいなら別に帰って良くてよ」
「い、いや、そういうわけではなく」
俺を良く思ってないし、男を易々と部屋に入れるのはどうなのかと…。真由ちゃんは俺がそう言う前に、溜息を吐いて髪を梳いた。
「何かしようものならボロ雑巾にして廃棄処分するから」
こ、こええ。目がマジだ。何かするつもりは全くないが、体がぶるりと震える。
「それじゃ、そこに座って」
真由ちゃんが椅子を指差す。俺は言われた通りに腰を下ろした。向かいに座った真由ちゃんが腕を組んで、じっとこっちを見る。相手は美少女。瞳や愛で見慣れているとはいえ、真由ちゃんに見られると緊張する。探られているから、っていうのもあるんだろうけど。
「優治お兄様の御家のことが知りたいと言ったわね」
「……ああ」
「何で? この前ので、自分が優治お兄様に相応しくない存在だと気付いたでしょう」
「……そりゃ、まあ」
苦笑する。そんな俺を訝しげに見て、それなら何故と目で訴えかけて来る。答えようと口を開いた時、控えめなノックの音が聞こえた。
「入って」
真由ちゃんが俺から視線を外さずノックに答える。「失礼いたします」少ししゃがれた声の声が聞こえて、白髪頭の執事と思わしき男性がワゴンを押し、入ってきた。
「ダージリンティーでございます」
「あ、どうも…」
男性は高そうなティーポットで高そうなティーカップに丁寧に注いでいく。部屋に注いでいる音だけが響く。
うっ。話しにくい。この人が出て行ってから話そうと思っていると、痺れを切らしたのか、真由ちゃんが男性に言った。「もういいから出て行ってちょうだい」男性は慣れたようにかしこまりましたと答え、静かに礼をして部屋から出て行く。
扉が閉まる音とともに、俺の喉がごくりと鳴った。
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