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「そういえば、今日は一人なのね」
「…まあ」
「煩いのがいなくていいわ」

 ……もしかして、それは瞳のことか? 俺は苦笑する。真由ちゃんは運転手の人にドアを開けてもらって車に乗る。

「どうぞ、お乗りくださいませ」
「あ、ありがとうございます」

 乗車を促され、俺は頭を下げながら真由ちゃんに続いて車に乗る。それからすぐに車が発車した。ま、真由ちゃん行先告げてないけど大丈夫かな…。いや、っていうか俺はどこへ連れられるんだ?

「あのー…」
「あ?」

 すみません、黙ります。
 俺は真由ちゃんに睨まれ、大人しく口を閉じる。それから無言の時間が続き、居心地の悪い思いをすること数十分。車が止まる。顔を上げると、門が音を立てて開いた。
 もしかしてと真由ちゃんを見る。ここは真由ちゃんの家なのか?

「こっち見るな」
「ご、ごめん。…ここは、真由ちゃん家なのかなーと」
「そうだけど」

 真由ちゃんは素っ気なくそれだけ答える。俺は窓から外を眺めて、やっぱり金持ちなんだな、と思う。何度も感じることだけど。やっぱり住む世界が違う。…でも前と違うのは、それでも、俺は優治先輩の隣に立ちたいというこの気持ち。

「降りろや」

 真由ちゃんがぼんやりとしている俺に声をかける。いつのまにか車が玄関だと思われる大きな扉の前に停められていて、真由ちゃんはすでに降りていた。俺は慌てて運転手の人に礼を言って車から降りる。扉の傍に立っていた執事らしき人が扉を開けた。
 真由ちゃんはさっさと一人で行ってしまう。俺は場違い感をひしひしと感じ、思わず猫背になってしまいそうな背中を叱咤して、背を伸ばす。優雅に歩く真由ちゃんに続き、俺は堂々と扉を通った。

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