桜田家

 真由ちゃんにメールを送り、学校へ行く。今日は京にも津村にも会うことはなく、平和に時間が過ぎて行った。いつもは寝てしまう授業も、今日は真剣に受けた。休み時間に復習したり、先生に分からないところを教えてもらいに行ったりもした。いきなり真面目になった俺を周りが不思議そうにしたが、夏休み直前にあるテストに向けてだと言うと、納得したようだった。
 昼を過ぎても真由ちゃんから連絡は来ず、肩を落とす。忙しいのかもしれない。それとも、俺ともう会いたくないのかもしれない。…あの時、勝手に帰ってしまったし、優治先輩に見つかってしまった。あの後優治先輩から怒られたんじゃないかと思う。だから、俺の顔なんて…。
 しかし、放課後。今日は瞳たちは用事があり、一緒に帰れないため、一人で正門を抜けると、真由ちゃんが数人の男に囲まれていた。真由ちゃんと目が合うと、、じっと見つめられる。目が助けろ、と言っていた。俺は真由ちゃんたちに近寄る。

「真由ちゃん」

 一斉にこっちに向く顔。チャラそうな男ばかりだ。男たちは、げ、と顔を顰める。

「まーた高浜かよ」

 俺の名前を知っているようだ。また、というのは…瞳と愛に続いて真由ちゃんもお前の知り合いかよということだろう。ネクタイの色を確認する。二年生だ。俺は苦笑する。

「会長の従兄妹なんで、彼女に手を出したら会長に殺されますよ」
「げっ!? マジかよ!?」

 優治先輩の名前を出すと、男たちは顔をさっと青くして、逃げるように去って行った。そして俺と真由ちゃんの二人になる。

「…お礼なんて言わないから」
「いや、いいよ。何もされなかった?」
「当たり前だろーが。されるまえにぶっ飛ばす」

 こわっ。素を出した真由ちゃんは不愉快そうに宙を睨む。そしてそのままギロリと俺を睨んだ。

「それで、何の用」
「……優治先輩の家のことを、教えてもらいたいなと思って」

 断られるだろうな、と思いながら口に出す。しかし真由ちゃんは一瞬だけ視線を落として、俺を見上げる。

「いいわよ」
「えっ」
「ついてきて」

 ……えっ? いいの?
 呆然とする俺の足をげしっと蹴って、早くしろと言わんばかりの目でこっちを見る。なんだか今日はいつもより棘がないような…。不思議に思ったが、真由ちゃんの気が変わったら大変だ。俺は慌ててありがとうと口にする。ふん、と鼻を鳴らした真由ちゃんが歩き出し、俺も足を動かした。

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