決意

「特に、言ってなかったよ、うん」

 目線を上に遣って笑う郁人。……怪しい。

「ホントに?」
「ほ、ホント。桜田さんが兄ちゃんを悪く言うはずないじゃん? 安心しなって」
「…そうかな」

 「そうそう」と郁人は笑うと、続けて言った。

「ていうか、俺、嬉しかったよ」
「は? 何が…」
「兄ちゃんが桜田さんへの気持ちを俺に話してくれたこと」

 郁人はごろりとベッドに横になって、不思議そうに俺を見る。何で急に話してくれたのか、という疑問が伝わってきて、俺は優治先輩を諦めたくないということを話した。家柄などで悩んでいたことも。

「決意表明ってわけじゃないけど…郁人に話して自信をつけたかったんだ。それに、郁人には心配かけたし…」
「兄ちゃん…」

 まあ、郁人は気持ちを知っていたわけだけど。郁人はベッドから腕を伸ばして来て、ぎゅっと俺の手を握る。

「俺、応援するよ。誰が何を言おうと、味方になる」
「郁人…」

 ジーンとする。嬉しかった。
 俺は手を握り返して、泣きそうになるのをぐっと堪える。

「ありがとう。俺、お前が弟で良かったよ」
「そうでしょ?」

 へへ、と照れ臭そうに笑う郁人の頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜた。












 今日も今日とて朝が来る。むくりと起き上がって背伸びをする。カーテンを開けて、眩しい光に目を細める。

「よし!」

 俺はぱちんと両頬を叩く。今日は、やらないといけないことがある。まずは、昨日食べ忘れた瞳のクッキーを食べる。そして、真由ちゃんに連絡をとる。優治先輩の家について知りたいからだ。できれば今日会って話を聞きたい。無理だったら近いうちに。そして勉強。優治先輩の隣に立っても恥じない人間になりたい。――俺は、生徒会を目指すことにした。
 

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