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「…あ、あの。京っていう人…知ってますか」
「……ああ」

 先輩はあからさまに嫌そうに顔を顰めた。

「一時期会長が構ってた子だね。色んな意味で強烈な子だからすぐに覚えたよ」
「ああ、ですよね…」
「あの子、言いたい放題やりたい放題だからね。気に入らないことがあると特に。…実は今日も来てね」
「京がここに?」

 うん、と先輩が頷く。「きみと同じように会長のこと訊いて来たんだけど…」先輩は深い溜息を吐いた。いきなり疲労の濃くなった顔。苦労したんだろうな…と思いながら、思い出したように手首が痛み出して、俺はゆっくりと手首を擦った。もう痕は消えたんだけど…。
 先輩はそんな俺の動作に気がつき、少し眉を顰めた。

「もしかして掴まれた?」
「…はい、まあ」
「力が強いから痛かったでしょ。大丈夫?」
「はい、もう」

 安心させるように笑えば、先輩は顔を和らげた。俺は京が来たという話の続きが聞きたくて、それで、と促した。

「ああ、うん。あの子は時々ここに来て、会長に追い返されてるんだけど…。今日は会長がいないから、何でだって騒いで…」

 そこまで話すと、先輩はハッと何かに気がついたように目を見開いた。

「そうだ、それで…あいつのせいだ、って叫んで走って行っちゃったんだ。……教室に戻ったんだと思ったんだけど、あの子は、きみの所へ行ったんだね」
「…なるほど」

 先輩はごめん、と俺に申し訳なさそうに謝った。俺は先輩は何も悪くないと首を振る。…京は、優治先輩がここにいないのが俺のせいだと決めつけていたってことが分かってすっきりした。優治先輩が家の用事……というのも、若干不安ではあるけど生徒会の人が言うなら本当にそうなのかもしれない。確かめに来て良かった。
 俺は先輩に向かって頭を下げた。

「ありがとうございました」
「ううん、いいんだよこれくらい。…あの子に何かされたら、遠慮なく言ってね。少しだけだけど力になれると思うから」

 俺はもう一度感謝の言葉を告げて、生徒会室を後にした。足取りは軽かった。

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