生徒会室

 京に絡まれ、津村に出会い、高野に相談した他に何か起こることはなく、放課後になった。

「ヒロくん、一緒に帰ろう」

 誘ってくる瞳に用事があると断れば、案の定何の用事かと訊ねられる。提出するものがあると嘘を吐いた俺に、じゃあ待っていると言われ、俺は仕方なく頷いた。どうせ時間はかからない。それにこれ以上瞳を断れば、面倒なことになるのは分かっている。瞳を一人残すのは心配だからという愛も一緒に待ってくれるらしい。俺はそんな二人に見送られ、教室を出た。
 行く先は生徒会室。――優治先輩が来ているか、来ていないかを確かめるためだ。覗いて優治先輩がいるならそのまま帰る。いなかったら席を外しているだけか、欠席しているかを訊ねる。
 どきどきと逸る心臓。生徒会室に行くのは初めてだった。もともと生徒会室なんて頻繁に訪れるような場所ではない。俺は行く機会なんてなかったから、場所すらも少し怪しい。
 時々生徒手帳で場所を確認しながら歩き、無事に目的地へ辿り着いた俺。そっと窓から覗き込んだ感じ、優治先輩はいない。存在感のある人だから、いたら分かるだろう。じゃあやっぱり今日は来ていないのか…と思った時だった。中にいる人とばっちり目が合ってしまった。

「あ」

 思わず声が出る。目が合った優男風の男――おそらく、先輩――は数回瞬きをすると、立ち上がった。え、と思っていると、生徒会室のドアが開いた。

「やあ、ええと、きみは一年生だね。何か用かな?」

 俺のネクタイを一瞥し学年を確認した先輩は、優しげな笑みで問いかけてくる。俺は少し緊張しながら口を開いた。

「ゆ…あ、あの、会長は…」
「会長? ああ、会長に用事なんだね。残念ながら、会長はいないよ。お家のことで忙しいみたいでね、数日間は来ないみたいだ」

 困ったように眉を下げる先輩は、続けて言った。「今生徒会の仕事も忙しいから早く出てきて欲しいところなんだけどね」

「あ、家の用事で…」
「うん、僕たちはそう聞いてるよ。まあこういうことは前からあったし、粗暴だけど仕事はちゃんとやる人だから、嘘じゃないと思う」
「そうなんですか…。ありがとうございます」
「いいよ、これくらい。……あのさ、もしかして、きみ、高浜大樹くん? 会長が可愛がっている後輩って、きみだよね」
「へ」

 目を丸くする俺に、やっぱりそうかと頷く先輩。先輩は目を細めて笑う。

「会長は雰囲気が柔らかくなった。きみのおかげだ」
「いや、別に俺は何も…」
「いいや、だって会長本人が言ったからね。俺様がこうなったのは、あいつのおかげだ。って」

 優治先輩が、そんなことを? 顔に熱が集まり、視線を下に向ける。





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