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「それに、大樹と関わりがある先輩っていうと、会長しか思いつかないし」高野はそう続けた。確かにその通りだ。俺は部活に入ってるわけじゃないから先輩と関わりがない。本当に優治先輩くらいだ。…まあ、愛や瞳関係でちょっとした関わりがある人も一応はいるんだけど。

「でも、そうだよな。会長は違うか」

 俺が慌てて違うという前に自分で否定した高野は、先輩の特定をするつもりはないらしく、でもさ、と口にする。

「その大樹を良く思ってない奴は…何で大樹にそんなことを言ったんだ?」
「俺が先輩を傷つけたからだ…。だから学校を休んでるって」
「ん? じゃあそいつは先輩と仲が良いのか? 傷つけたとかそういうのも知ってるような…」
「いや、仲は俺も良く分からなくて…」

 優治先輩と京の関係はややこしいというか、説明しにくい。俺は首を振って分からないと告げることにした。

「じゃあ嘘を言ってるかもしれないってことだな。……どうしても気になるなら、やっぱり確かめた方がいいと思うぞ、俺は」
「……だよな」
「何をしてどういう風に傷つけたのかは分からないけど、大樹はどうしたいんだ? 謝りたい?」

 謝りたいか…。俺は高野の言葉を頭の中で復唱する。…謝りたい、とはちょっと違う。謝ったら余計に優治先輩を傷つけてしまうだろうし、もう一度迫られたら断れる気がしない。……ああ、そうか。

「…時間が、ほしい」

 俺はやっぱり優治先輩が好きだ。これからも一緒にいたいと思う。家柄とか容姿とか、そういうのをちゃんと考えたい。あの時はぐちゃぐちゃの頭で、そんな時に想いを告げられ、俺は答えを出した。暫く優治先輩と離れて、俺がどうしたいか考える時間がほしい。
 真っ直ぐ高野を見つめると、高野はふ、と笑って俺の頭を軽く叩いた。

「ありがとう、高野」
「いや、俺話聞いただけだし。何もやってないって」
「そんなことない」

 ――俺はどうしたいのか。とにかく俺じゃだめだ、ということしか頭になかったんだ。高野に言われるまで。俺はウインナーを口に入れる。優治先輩が欠席しているかは、やっぱりちゃんと確かめよう。それで、優治先輩とは距離を取る。
 少し気が楽になって、俺は隣でお握りを頬張っている男に、心の中でもう一度感謝した。

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