相談事2

 しかし、あっさりと解放してくれたな。京と比べたら全然マシだ。暴力的ではないし、まだ話が通じる。面倒臭い奴だとは思うが、扱いやすそうでもある。――まあ、何回も言ってるようにこれから関わるつもりはないからどうでもいい。向こうも俺のことなんかすぐに忘れるだろう。
 俺は早足で売店に戻る。高野はすぐに見つかった。スマホを耳に当ててきょろきょろしている。…電話中か?
 どうしようかと思っていると、振り向いた高野と視線が合う。その瞬間、あ! と高野が声を上げた。

「大樹! どこ行ってたんだよ!」

 耳からスマホを離した高野がこっちに近づいてくる。「電話しても出ないし」言われてハッとする。ポケットから携帯を出すとちかちか光っていた。サイレントにしていたため気付かなかった。そのことを告げると高野は呆れたように溜息を吐いた。

「びっくりするだろ。せめて何か一言くれよ。メールでもなんでもいいから」
「ごめん。すぐに戻ってくる予定だったから…」

 俺の疲れた顔を見た高野が訝しげに首を傾げる。

「どこ行ってたんだ?」
「近くの自販機」
「それで?」
「なんか変なのに捕まった」
「変なの…?」

 あ。そうだ、高野は知らないだろうか? 津村のこと。俺より交友関係が広いし、もしかしたら知り合いかもしれない。

「津村仁って奴なんだけど…」
「えっ、津村仁? 来てるのか?」
「来てるのかって…高野、そいつのこと知ってるのか」
「ああ…っていうか、大樹こそ知らないのか。あの人のこと」

 え、結構有名な奴? いや、確かに目立つ奴だとは思うけど。いろんな意味で。俺が頷くと、高野は困ったように眉を顰めた。。

「あの人は一年だけど、留年してるから年上なんだ。で、学校にほとんど来ない人」
「……と、年上だったのか」

 思い切りタメ口で喋ってしまったけど。精神年齢が低そうだから同い年だと信じて疑わなかった。そうか、年上だったのか…。

「留年って、出席が足りない…とかそういう?」
「まあ普通に考えてそうみたいだな。……俺は会ったことがないからどういう人か良く分かんないけど、何もされなかったか?」

 背中押されて変なジュースを買ってしまったけど…まあ、何もされていないと言えばされてないな。俺は頷く。高野はほっとしたように息を吐いた。

「そうか、ならいいや。それより早く行こう。時間がなくなる」
「ああ」

 腹減った。空腹を訴える腹を押さえて俺たちは歩き出した。

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