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「えっと、俺急いでるから…」
「はあ!? マジ有り得ないでしょ」
「な、なにが?」

 笑みが一瞬にして怖い顔になり、驚いて一歩後退る。背中に自販機が当たった。

「それだよそれ! 飲まないのか!?」

 びしっと指差すのはナポリタン風ジュース。……つまり、今ここで飲めと。ペットボトルならまだしも缶だから飲むんなら後にしたいんだけど。ここで時間をくってしまったら相談はおろか昼飯を食べる時間までなくなってしまう。俺は仕方なくプルタブに指をかけ、ぷしゅっと開ける。津村はわくわくとした顔でこっちを見る。…ころころ表情が変わる奴だな。俺はそんなことを思いながら恐る恐る缶を傾ける。すっと入ってきた液体に目をカッと見開く。
 まっっっっず!
 吐き出したくなるのを慌てて手で押さえて飲み込む。こんなに不味い飲み物初めてだってくらい不味い。何故こんなものを生み出してしまったんだ。

「なな、どうだった?」

 いや見て分かれよ! どう考えても美味しそうな顔してないだろ!

「…の、飲む?」

 俺は口を押さえていた手を離して缶を津村に近付ける。津村は飲む飲む! と無邪気に答えると俺から缶を受け取った。そして一気に缶を傾け……え! だ、大丈夫か!? 吐くなよ頼むから!
 しかし缶を口から離した津村が放った一言。

「うっま!」
「ええええ!?」

 どうなってるんだよこいつの味覚! むしろ俺がおかしいのか!? …いや、それはない! うん!

「これいいな、俺も買おうかな」
「あ、えーっと、それ、やるよ」
「ええ!? こんなうまいもんをタダで貰っていいのか!?」

 いやタダとは言ってないけど。まあお金は別に要らない。そのジュースを処分してくれてありがたいし。

「たかちゃん良い奴だなあ!」
「そうか? ははは」

 思わず乾いた笑いが出る。俺は財布から小銭を出して今度はちゃんとお茶を買った。

「じゃあ俺もう行くな」
「おう、じゃーな!」

 そして俺は漸く、この変な男から解放された。一気に疲れたな、なんか…。

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