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なあなあ、と男がしつこく話しかけてくる。これは、俺が話すまで解放してくれない感じだな。
「えっと、俺は」
「あ、喋った」
「喋ったって…」
「無理矢理口開かそうと思ったのに、つまんないな」
うわ。危なかった。良かった。男のぶすっとした顔を見てほっとする。このままどっか行ってくれたら一番いいのだが、どうもこの男は余程このジュースが気になるらしい。そこを動かないまま、それで、と口を開く。
「名前は?」
「高浜大樹、一年……です」
年上かもしれないので一応敬語を使う。ネクタイの色で学年が分かるようになっているが、男はネクタイをしていない。
「うっそ、一年? 俺と一緒じゃーん」
「あ、そ、そう」
どうやら同学年らしい。こんなに目立つ奴がいたら分かりそうなもんだけどな。
「で、で。俺のこと知りたいっしょ? ねえ知りたいよな?」
「い、いやあ…」
まったく知りたくないと言ったら嘘だが、別に知りたくはない。とりあえずクラスと名前が分かればそれで十分だ。
「うわ、たかちゃんすげー知りたそうな顔してんねー」
いやそんな顔してな……たかちゃんって誰だ。もしかして俺のことなのか。
「よーく聞けよ! 俺様は津村仁様だあ! 好きなものは俺。嫌いなものは勉強とうぜえやつ!」
えへん、と胸を張って誇らしげに自己紹介。……ああ、そうか、という感想しか出てこない。
「ま、…あの、よろしく?」
「しゃあねえ! よろしくしてあげよう!」
うぜえ。…自分の嫌いなものがうぜえやつって言ってたけどうざい自分は好きなのか。もしかしたら無自覚なのかもしれない。いや、もういいや。関わることないし。
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