新たな出会い

 京に会うことなく無事に売店に着いた俺たち。相変わらず混んでいる。売店はここにしかないから余計に人で溢れるんだよな。俺は戦場に赴くような様子で向かった高野を見送り、壁に寄り掛かる。
 そういえば飲み物を買ってなかった。今まで特に何も感じていなかったのに、ずっと何も飲んでいないと思ったら突然喉が渇きを訴えかけてきた。…まだかかりそうだし、買って来よう。売店の方が種類もあるし安いが、流石にあそこに入りたくない。今度は俺が高野を待たせてしまうし。近くに自販機があったはずだ。俺は一度高野……がいると思われるところを見て、早足で自販機に向かった。












 自販機の前に立つ。俺はある飲み物を見て固まった。な、なんだって、と小さく呟く。

「こだわりシェフのナポリタン風ジュース…!」

 不味い。絶対に不味い。ナポリタン風ジュースとか聞いたことないし、第一こだわりシェフって何だ。誰だこんなもの作ったの!
 ……しかし、気になる。不味いとは思うけど、どんな味なんだろう。俺は小銭を入れると、恐る恐るボタンに指を乗せる。そしてハッと気づいた。これから弁当を食べるっていうのにこんなもの飲むのは駄目だろ。お茶にしよう、と思った時には遅かった。俺は後ろから押され、その時ボタンを押してしまったのだ。ぴ、がこんという音が虚しく響く。

「おーい、まだ?」

 呆然と落ちてきたナポリタン風ジュースを見ていると、後ろから声がかかる。聞き覚えのない声。恐らく、いやほぼ間違いなく俺を押した犯人。
 俺は振り向いた。明るい茶髪で、前髪をカチューシャで上げた、赤フレームのおしゃれ眼鏡の男と目が合う。

「もう買っただろー? 退いてくんない?」

 にかっと歯を見せ笑う。八重歯と見た目でとてもやんちゃそうに見える。……って、おい。買っただろって。お前が買わせたんだろ!
 しかしにこにこと笑う顔を見ていると怒りが萎み、俺は仕方なくジュースを手に取った。はあ、と溜息を吐くと、男が、あ! と声を上げた。

「それ買ったんだ! 俺気になってたけどちょっとやっぱ迷うっていうか。お前勇気あるなあ。なあ、何て名前? 何年?」

 男が興奮気味に俺に近付いてくる。俺は顔を引き攣らせた。なんていうか、この強引な感じ。優治先輩とか京とか瞳とか真由ちゃんとかといい、何か俺ってそういう奴を引き付けるにおいでも放ってるのか?

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