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 俺の視線に明らかに動揺する京。言われていないらしい。俺は少しほっとして、腕を振った。しかし放されるどころか、強くなった力に眉を顰める。髪で覆われた目がぎろりと俺を睨んだ気がした。

「全部、全部お前がいるから! 優治はおれのことを好きなのにお前のとこに行っちゃうし、学校に来ない!」

 京が叫ぶ。野次馬が集まってきていて、勘弁してくれと思う。優治先輩の話だから、更に興味があるのかもしれない。
 どうしよう。どうしたらいいんだ。

「とりあえず、落ち着いてくれ」
「うるさい!」

 放り投げるように手が外される。手首を見ると、痕がくっきりと残っていた。

「おい、そこ何してる」

 はっとする。京の後ろから声をかけてきたのは生徒指導の先生だ。先生は野次馬を追い払うと、俺と京に目を向ける。

「またお前か」

 一瞬びくっとしたが、先生は俺ではなく京を見ている。まあ、俺生徒指導の先生にお世話になったことはないしな。

「げっ! お前!」
「げっじゃないだろ! あとお前って呼ぶな!」

 先生はちらっと俺を見る。そしてしっしっと追い払うように手を動かした。色々訊かれるのではないかと思ったけど、どうやら行っていいらしい。もしかして相手が京だからだろうか。何にせよ、助かった。ありがたく教室へ戻らせてもらおう。俺はさっと礼をした。
 …しかし、結局俺一人では解決できなかった。俺は肩を落とし、教室に足を向けた。

「おい! 何すんだよ!」
「お前はいつもいつも問題を起こしやがって! てか言葉遣いどうにかしろ!」

 後ろからぎゃあぎゃあと騒がしい声が聞こえる。……先生、頑張ってください。

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