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「なに、あんた。その顔は」
「……訊かないでくれ」

 教室に入った時に目が合った愛は俺の顔を見て訝しげな顔をする。瞳は俺の顔を見て不思議そうにしながら、愛に視線を移す。愛らしい笑顔で言った。

「あのね、またクッキー作って来たの。一緒に食べよ」
「えっ」

 愛が固まる。血色の良い顔が見る見るうちに青くなる。俺の顔の意味が理解できただろう。俺と愛は顔を見合わせる。

「どうしたの?」
「い、いや、なんでもないよ、うん」

 ほら、座りなって。促す愛に頷いて、俺の腕を引っ張る。俺はされるがままという風に引っ張って行かれ、席に着く。わいわいと騒がしい教室の中、俺と愛だけ負のオーラを身に纏っている。少しして来た高野も俺たちと同じようになるのに時間はかからなかった。

















 クッキーは可愛らしい袋に入っていた。受け取らないということはできなかったが、今すぐ食べるということもできなかったため、持って帰ることにした。……勿論捨てるなんてことはできない。どんなに不味かろうが、瞳が作ってくれたものだし。だからちょっとずつ食べて…頑張ろう。

「あ! お前!」

 げっ。思わず声が零れる。少し距離のあるところから声をかけてきた真っ黒な男。――京だ。朝京の話をして、まさかすぐ会うとは思わなかった。なんて運のない。っていうか、やっぱりこいつ俺の名前知らないだろ。

「おい!」

 廊下にいる人たちが迷惑そうに京を見る。しかしまったく気にした様子のない京は大声を出しながらバタバタとこっちへ走ってきた。げええええ。
 
「お前優治に何した!」
「っは…?」

 どきっとする。何で京が知ってる…?

「な、何で俺が…」
「優治が学校に来ないのは、お前のせいなんだろ!」

 ……優治先輩が、学校に来ていない。ずとんと頭に石が乗ったような衝撃があった。はたして言っていることは本当なんだろうか。言っているのが京なだけに、信じがたい。

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