京

(side:大樹)

 朝は無情にやってくる。なんて、ベッドの中で雀の鳴き声を聞き、カーテンを通して当たる朝日を感じながら思う。……何やってんだ、俺は。さっさと起きよう。このままぼーっとしてたら二度寝しそうだ。
 もそもそとベッドから出て、立ち上がると、ぐっと背伸びをする。学校で優治先輩に会ったらどうしよう。怖い。挙動不審になってしまいそう。しかし体調が悪いわけでも外せない用事があるわけでもない。行かなければならないのだ。まあ、会う可能性はそんなにないだろう。そういえば忙しいって言ってたしな。よし、と声に出して俺は部屋を出た。

「あ」

 ドアを開けたところで、郁人と目が合った。どうやら同じタイミングで起きたらしい。

「おはよう」
「うん、おはよう」

 郁人はちょっとだけ俺の様子を窺うように見てきて、俺は安心させるように笑いかける。するとほっとしたように顔を緩めた。そして、ふあ、と欠伸をする。

「眠そうだな」
「ちょっと夜更かししてて」

 へへ、と笑う郁人は、俺が何をしてたか訊く前に、ゲームの名前を挙げる。俺はほどほどにしておくように言って、階段を下りた。
 リビングのドアを開けて入ると、母さんがこっちに首を向けて、おはようと口にする。俺たちは声を重ねるようにしておはようと返し、定位置に座る。郁人は横で眠そうにしていた。母さんが俺と同じように、夜更かしの理由を訊くと、郁人は少し間を置いて、予習をしていたと嘘を吐いた。以前ゲームのやりすぎで没収されたことを思い出しているのか、苦い顔をしている。

「…あんまりゲームするんじゃないわよ」

 けど流石は母さん。すぐにバレた。郁人は分かってる分かってると嘘くさい笑みで言う。俺にはゲームを没収されて悲しむ郁人の未来が見えた。

「あ、そういえば兄ちゃん」
「ん?」
「…みやこ、って人、知ってる?」
「……京」

 郁人から出た名前に、俺は固まる。

「…何で、その名前」
「いや、ちょっと、話が通じないとかって噂で聞いて」

 噂になるまでなのか。いや、確かに話が通じないけど。俺は郁人の様子に何だか違和感を覚えながら、知っていると答える。

「京さんと知り合い…とか?」
「知り合いと言うか、顔見知りだな」

 向こうは俺の名前を知ってるかも分からないし。やたらとお前お前連呼されてたような気がする。

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