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「だって、何も分かっていらっしゃらなかったから…」
「分からねえって、何だよ。何が分かってないって?」
「…全てですわ。お家柄も、価値観も容姿も全て」
「だからなんだっつーんだ、そんなの俺は…」

 そこで気がつく。俺はいい。…でも、大樹は?
 慌てて出て行く姿。俺を拒絶。想いに応えられない。涙。パズルのようにハマっていくそれら。俺の都合のいい解釈かもしれない。でも悪い想像より、良い想像をしていた方がいい。

「あ、あの…」

 見合い相手の女が口を開いた。こいつ、まだいたのか。どう見てもこれは破談なんだからさっさと帰ってくれていいんだが。かたかたと震えていかにも被害者ぶっている女――まあ、実際に被害者ではあるが、こういう奴は特にイライラが大きくなる。

「俺様には好きな奴がいる。諦める気も、テメェと結婚するつもりもねえ。分かったか?」
「わ、わたくしだって、あ、あなたのような男性、お断りですわ」

 震えた声で必死に俺を睨みつけて来る女に鼻で笑い、そうかとだけ返す。

「真由、テメェもだ」
「…優治お兄様は、本当に大樹さんがお好きなんですね」
「ああ」

 大樹のことを思い浮かべて顔を緩めると、真由はぐしゃりと顔を歪めた。

「…ごめんなさい」

 ぽろぽろと涙が零れる。顔の造形で言えば真由の方が圧倒的に整っているが、特になにも感じない。ああ、泣いたなと思うだけだ。でも、先ほど大樹が泣いた時は、胸が締め付けられたような感じだった。
 俺は、大樹が好きだ。大樹が気になるというなら、俺が気にならないようにすればいいだけの話。暫く大樹に会えないことになりそうだが、その後、大樹と付き合うことができると思うと、我慢できる。……付き合うことができないというのは想像しないでおこう。現実になったら困る。
 俺は真由と女に立てと命じて、二人を置いてダンスホールに向かった。

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