冷えた熱

(side:優治)

 何が起こったのか理解するまでに時間がかかった。何で。何が、この状況を作ったのか。告白したのが悪かったのか。
 …思えば、会った時から様子がおかしかった。慌てて帰るようだったし、俺と目が合ったときなんか、顔が青かった。何があったのだろうか。原因と思われるのはすぐに思いついた。――真由だ。真由があいつをここに連れてきたのだ。あの時も真由が追いかけてきていたし、何かをしたに違いない。
 俺は控室から出る。真由の所へ急いだ。まだあそこにいるかは分からないが、いざとなれば呼び出せばいい。くそ、と舌打ちをする。あそこで追いかけることができなかった。引き留める勇気はなかったし、そうしたところで余計傷つけそうだったから。
 でも、あいつは俺に気持ちが傾いていたと思っていた。何で、告白しようとしたら止められたんだ。何で答えられないなんて言ったんだ。疑問は次から次へと浮かんできて、俺はそれを吹き飛ばすように頭を振った。













「真由!」

 真由はまだあそこにいた。見合い相手の女も一緒だ。親父は俺が女に興味がないと知りながら、こうやって見合い話を持ってくる。どうやったって俺が女に興味を持つことはないのに。真由も諦めてくれればいいものを。
 真由はびくりと肩を震わせて、顔をゆっくりと上げる。俺は息を切らせながら見下ろす。

「ゆ、優治お兄様…」
「テメェ、大樹に何をした」
「…っ私は、何も…!」
「嘘吐くんじゃねえ! だったら何であいつは…!」

 俺はむかむかとして、目の前にあるそれらを蹴飛ばしたくなった。しかしそれを抑えられたのは、頭に大樹の顔が浮かんだからだ。俺が女に暴力を振るったと知ったら、俺のことを嫌いになるから。……今は、まだ嫌われていないと信じたい。

「ッチ」
「ゆ、優治お兄様…」
「――で、何で大樹がここにいるんだ? テメェが連れてきたんだろうが」
「……はい、私が、連れて来ました…」

 んなことは分かってる。連れてきたかどうかじゃねえ。何でだと訊いてんだ。俺は冷めた目で眉を見下ろす。真由が青ざめた。

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