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 ガン、と凄い音がしたと思ったら俺は倒れていた。生まれて初めて味わう程の痛み。頬が熱を持ったようにじくじくと熱い。――俺は、殴られたんだ。呆然とした顔でぼんやりと認識した。
 恐る恐る見上げると、それはもう鬼のような顔で俺を見下ろす生徒会長の姿。俺は完全に恐怖しか抱けなくて、ガタガタと情けなく震える体を抱き締める。
 低いバリトンの声が俺の鼓膜を震わせた。

「んでテメェがこれを持ってんだ、あぁ!?」
「な、んで…って、俺の机にそれが…」
「ふざけんのも大概にしろ。何で俺様がテメェの机に……ん?」
「え…?」

 ふと、何か思案するように眉を顰めた生徒会長は、まさかという表情をして俺を見た。

「テメェ、学年とクラスは」
「あ、えと…一年B組です、けど」
「……席の場所は」
「え、えっと…窓側の前から三番目です」
「……ッチ。やっちまった」

 舌打ちをして苦虫を潰したような顔をした生徒会長は俺をギロリと睨む。俺はその視線を真っ向に受けて竦み上がった。こ、この人不良じゃないの!? オーラ半端ないんですけど!

「おい、いいか。俺様はテメェみたいな不細工なんかこれっぽっちも興味ねぇ。勘違いすんなよ」
「え、…いや、勘違いするも何もそれ…女性宛てでしょうし…」

 普通に考えてこれを貰ってテンションがウキウキランランだったとしても、行って男がいたらそんなフラグは木っ端微塵に砕けるわ。
 え、ていうか…。

「こ、れ…生徒会長さんの、なんでしょうかぁばばばばばば!?」
「うっせぇ! 取り敢えず入れ糞ガキ!」

 糞ガキ!? そんなに歳変わりませんけど! ていうか頬を恐ろしい力で引っ張るのはやめろおおおお! もぎ取るのか!? もぎ取る気なのか!?
 ぽい、とまるでゴミのように家庭科室に放り込まれた俺はもう何がなんだかさっぱりだった。え、えっと…この人がノックアウト(笑)とか薔薇の君(笑)とか書いた(痛い)人なのか……。なんだろう酷く残念な気持ちになった。

「このラブレターを見られちまったのなら仕方ねぇ…」

 それラブレターなの!? 
 ふん、と鼻を鳴らして俺を見た会長の顔は悪いことを思いついた顔をしている。

「よし、テメェは今日から俺様の下僕だ」

 どうやら今日は厄日のようだ。









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