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 真由ちゃんは俺の腕を引っ張り、隅へ向かう。あまり目立ちそうにない場所。

「あそこに居ましょう」

 あ、もしかして。真由ちゃんも目立ちたくないのかもしれない。俺は頷いた。そして真由ちゃんのパートナーらし振る舞おうと自然な笑みを浮かべたが、どうやら失敗したらしい。真由ちゃんは俺の顔を見て、一瞬馬鹿にしたように笑ったから。…だって仕方ないだろ。こんなところ普通は訪れない。

「あの…いつ始まるの?」

 何だか皆俺を見ているような気がして、落ち着かない。変なところとかないかな。そわそわしながらこそっと訊ねると、真由ちゃんはぎろりと俺を睨んだ。

「ウザいんだけど。もうちょっと落ち着いてくれない? 不審者だと思われるわよ」
「俺だって落ち着きたいけど…こういうの初めてなんだよ」
「でしょうね」

 真由ちゃんは不敵に笑う。俺は何だか怖くて、視線を逸らす。と、その時。会場がぱっと暗くなった。俺はびっくりして辺りをきょろきょろ見回す。

「おい」

 真由ちゃんが一オクターブ低い声で俺に声をかける。やばい。確かにこれじゃ不審者だと思われてしまう。

「ご、ごめん」

 静かに謝罪すると、ふん、と真由ちゃんはそっぽを向いた。
 で、お見合いパーティーって、どんな感じなんだろう。ダンスっていつなんだろうか。

「皆さま、大変お待たせいたしました」

 司会らしき人が出てきて、スポットライトがその人を照らす。司会が二人の名前を呼ぶ。一人は桜田と言ったから、優治先輩の父親だろう。もう一人は…恐らく、見合い相手の…。
 優治先輩の父親ってどんな人なんだろうか。じっとステージを見つめる。長身の男性と、少し小太りの男性がステージに上る。長身の男性を見て、確信する。あの人が優治先輩の父親だ。優治先輩にそっくりだ。幾つなんだろう。あまり歳をとっているように見えない。


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