6

 会場へ着き、さっさと降りろと真由ちゃんに急かされた俺は、運転手の方に礼を言ってドアに手をかけようとした。しかしその前にドアが開き、運転手が恭しく礼をする。凄い。まるで自分が金持ちになったような気分だ。俺は再び礼を言って、車から降りた。

「いってらっしゃいませ」

 真由ちゃんはその言葉に答えず、さっさと歩いて行ってしまう。俺は会釈をすると、真由ちゃんの後を追った。

「…いい? アンタは私のパートナー。余計なことは喋るな」
「は、はい」
「ホントに分かってんでしょうね」

 真由ちゃんは疑い深いらしく、俺をぎろりと睨んだ。…うん、正直言って不安だ。だから本当に置物のようにしているつもりだ。下手なことやって目立ちたくないし。でも真由ちゃんのような美少女と一緒だから目立つことは避けられない気もする…。
 ……あれ、ていうことは。優治先輩も俺に気付く可能性がある…? それってやばいんじゃないのか。優治先輩は俺がいることに良い思いはしないだろう。…まさか、それが目的? いや、どうだろうか。それだけじゃない気がする。俺は前を歩く真由ちゃんの背中を不安になりながら見る。答えは結局分からないままだ。











 受付の人に招待状を手渡す真由ちゃん。そして、麗しい笑みを浮かべて俺をパートナーだと紹介する。緊張しながらしっかり頷くと、受付の人は俺と真由ちゃんにブレスレットのようなものを差し出してきた。これを付けろということらしい。慣れた手つきで手首に巻く真由ちゃんに倣い、俺も手首に身に着ける。……これ、高そうだけどいくらなんだろう。きらきらしてる…まさか、宝石? そう考えると、ちょっと血の気が引いて、ブレスレットを見つめる。なくしたら大変なことになりそうだ。壊してもまずい。大切に扱おう。

「さあ、行きましょう」

 真由ちゃんがするりと腕を組んできてぎょっとする。慌てて離れようとした俺の腕を力強く抱き締めてきて、真由ちゃんの眉はぴくぴくと動いてる。そ、そうだ。俺はパートナーってやつだから、腕を組むのはおかしなことじゃないんだ。むしろこうしないと不審に思われるのかもしれない。俺が肩の力を抜くと、真由ちゃんも同様に力を抜いてくれた。

「しっかりしろクズ」

 ぼそっと呟いた真由ちゃん。その顔は依然として笑顔だ。俺は心の中で謝って、足を進めた。緊張と不安、そして好奇心を抱きながら。

[ prev / next ]

しおりを挟む

6/79
[back]