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 真由ちゃんを見ていると、真由ちゃんが可愛らしく首を傾げた。

「何か?」

 目が笑っていない。俺は慌てて首を振った。真由ちゃんを待たせると悪いし、後で文句を言われそうだから早く食べてしまおう。俺は噛むスペースを速めた。

「兄ちゃん、桜田さんは来ないの?」
「ん? …ああ」
「そっか…」

 残念そうに呟く郁人を見て、真由ちゃんの目が光った。…郁人、今はその話をしないでくれ。なんて言っても、郁人は理解できないだろうな。真由ちゃんが先輩のことを好きって勝手に喋ってもいけないし、どうしたものか。…まあ、郁人は先輩のことが好きなわけじゃないし、放置でも構わないか…。
 俺は残りのご飯を掻きこんで、素早く食器を片付けると、洗面所へ向かった。

















 歯磨きを終えてリビングに戻ろうとしたら、洗面所に郁人が現れた。そして俺の腕を掴む。その顔は少し強張っていた。

「どうした?」
「あのさ…ちょっと訊きたいことがあるんだけど」
「後じゃダメか? 真由ちゃん待たせてるし…」
「すぐ終わるから!」
「……なんだ?」

 郁人は、一度後ろを確かめてから、声を潜めて言った。

「兄ちゃんって、……好きな人いる?」
「え?」

 予想外すぎた質問に、俺は目を丸くした。そして、まさかばれたんじゃ…と冷や汗を流す。

「な、なんでだ?」

 なるべく冷静を装って返すと、郁人は数秒迷ってから、こう口にした。「あの…真由ちゃんって子、好きなのかなって」

「え」

 ま、真由ちゃん?

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