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 …というか、それって俺が行っても大丈夫なものなんだろうか? 疑問に思って訊ねて見たら、ぎろりと睨まれた。

「大丈夫だから言ってんでしょ」

 …そ、そうだよな。

「で、どう。勿論行くわよね?」
「うーん…」

 俺は優治先輩を思い浮かべた。お見合い…。優治先輩は嫌がっていたけど、もし相手の人のことを気に入ったら…。そう思うと、もやもやした。

「ちょっと、何悩んでんの。まさか…嫌だとか言わないわよね」
「…いや、行くよ」

 少し、少しだけ。ちょっと見たら帰ろう。俺の答えに、真由ちゃんは満足そうに笑った。

「じゃあ携帯出して」
「携帯?」
「連絡先。お見合いパーティーのこと、送るわ」
「ああ、はい」

 俺は鞄から携帯を取り出して、真由ちゃんと連絡先を交換した。真由ちゃんは女の子らしい携帯を仕舞うと、ふうと息を吐いた。安堵の息のようだった。

「それで、真由ちゃんはこのためにわざわざ?」
「まあね。優治お兄様に運良く会えたらよかったのだけど」
「優治先輩は忙しいらしいからな」

 苦笑すれば、真由ちゃんはしょんぼりした顔でボソッと呟いた。「分かってるわよ」

「…アンタは良いわね。優治お兄様と同じ学校で…」
「真由ちゃん…」
「私だって優治お兄様と一緒が良かったのに……あんのクソババア共め」
「ま、真由ちゃん」

 可愛いお顔が大変なことに…。
 歯ぎしりしていた真由ちゃんは、ぱっと顔を戻して、俺に指を突きつけた。

「そうだ、アンタ。あの瞳とかいう子、ちゃんと躾しなさいよ。そして優治お兄様を諦めてあの子にしなさい」
「躾って…。瞳はちょっと我儘だけど、いい子なんだ。……妹みたいな存在なんだよ」
「…ふうん。まあ、いいわ。私、帰る」
「あ、うん。…送っていかなくて大丈夫?」
「車待たせてるから大丈夫よ。じゃあね」

 スカートをひらりとさせて、体を翻した真由ちゃんに、手を小さく振る。真由ちゃんはそのまま振り返らなかった。背中が見えなくなって、ようやく俺は校門から移動した。














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