回想




 ……あー、学校行きたくねえ。何で三日ってこんなに経つの早いんだ。
 横断歩道の前で溜息を吐きながら信号待ちしていると、肩に衝撃が走った。おいおい、ガスって俺がしたぞガスって。顔を引き攣らせながら振り向くと、予想していた人物がにっこり笑って俺を見上げていた。

「おっはよー、大樹ー」
「おはよ…。今日も元気だなお前は…」
「なぁにジジ臭いこと言ってんだ! ほらほら、私を構ってよ〜」

 ぐりぐりと顔を近づけてきて、顔が熱くなる。慌てて肩を押し返した。

「お前なぁ! そうやって近づくのやめろって!」
「はいはいごめんよっと。やっぱ大樹は可愛いなー」

 ポニーテールを揺らしながらニッと笑うこの女は姫川愛という。こんなに愛らしい名前をしているのに、性格はさっぱりとした男勝りで、ちょっと親父臭いところがある。顔はそこそこで、まあ俺は可愛いと思う。つか、元カノだ。小学五年生の時から中学一年の間付き合っていた。別れた後もこうして仲良くしている。よく遊びにも行っているからな。こいつと遊ぶのは退屈しなくて楽しい。しかしこいつも物好きと言うか…俺の照れ顔が可愛いらしい。ちょっと眼科行ったほうがいいと思う。
 そんなことを考えていると、ふわりとした甘く柔らかい匂いが漂ってきた。そして腰に回る手。……またか。
 っていうか、ここ外ですよ外。ちょっと周りを考えようね、きみ。

「おはよう、ヒロくん」
「あー…はよ。さて、離れようか瞳さん」
「えーヤダ」
「えーヤダじゃない! ほら、大樹困ってんだろー。離れなって、瞳」
「うー」

 渋々といった表情で離れた彼女は由良瞳。抱きつく癖があるらしくて、よくくっついて来る。実は……瞳とも付き合っていた。卒業する時に別れた。別れた理由は高校が別になるからとかだったんだけど、何故か高校一緒だった。意味分からん。まあ一応別れたんだし、今は付き合っていないということになる。
 大人しくて清楚な見た目をしているが、ちょっと我侭な一面がある。しかしそれも惚れた弱みと言うことで全然気にならなかった。我侭っていうか…嫉妬深い? 別れた今でも女子と話していると拗ねたような顔になる。
 周りの男子は羨ましすぎるとかいって睨んでくるが、この二人はもう友人なのだ。恋愛感情は持ってない……と思う。やっぱり俺って男の子ですし、べたべたされると…ね。

「それで、何でアンタは今日そんなにテンション低いわけ?」
「え、どうしたの? 具合悪い?」
「…いや、具合悪いわけじゃないんだ…。ちょっとこの前色々あって…」

 今日が憂鬱なんだと言う言葉は飲み込んだ。俺は清々しいまでに青い空を見上げて先日のことを思い出した。

[ prev / next ]

しおりを挟む

1/30
[back]