宿(傍若無人)

(side:チェシャ)


 暫くして、ハートのトランプたちが戻って来た。会長さんは何故か更に顔色が悪くなっている。憮然とした表情で僕を見ると、低い声で言った。

「んだよ」

 どうやら僕が笑っているのが気に食わなかったみたい。でも、仕方ないよね? これが僕なんだから。

「で、お前らはどこに泊まるんだ」
「なんか、空いてる部屋とか聞いたんやけど」
「テメェはな。俺はチェシャんとこでいいぜェ?」
「……え、何言ってはるんですか」
「だからこのクソネコんとこで寝るっつってんだよテメェの耳腐ってんのか、アァ?」

 ドスの利いた声に、ハートのトランプと会長さんの顔が青くなる。僕はそれを見ながらゆらゆらと尻尾を揺らした。

「いいけどさぁ、ベッドは僕が使うからね?」

 言った瞬間、ガッと後頭部を鷲掴みされた。つ、と細めた瞳は冷たい色をしていて、ぞくりとした。

「猫の分際で人間様を床で寝させるつもりかよ?」
「お、おいおい」
「だぁってろクソ人間」

 会長さんが止めてくれようとしてくれたけど、このイカレ野郎が人の言うことを聞くわけがなく、僕の髪を掴んでる手に力が込められただけだった。

「ベッドは俺が使う。……だがなァ、特別にテメェも使わせてやるぜ」

 特別に、ってそれ僕のベッドなんだけどね。相変わらず偉そうだなあ。僕はふ、と笑うとイカレ帽子屋の顎に手を這わせた。イカレ帽子屋も満足げに笑うと、バッと手を放す。
 視線を感じて会長さんの方を向くと、唖然とした顔でこっちを見ていた。その間抜けな顔が面白くて、僕は更に口角を上げた。


「……え、俺仲間外れかいな?」
「床で寝りゃいいだろ」

 サラッと答えるイカレ帽子屋に対して乾いた笑みを浮かべるハートのトランプ。
 結局、ハートのトランプは用意された部屋で寝ることになったよ。


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