会長と帽子屋(一触即発)

(side:チェシャ)

 噛まれたところを手でさすっていると、イカレ帽子屋がニヤリと笑う。僕はふうと息を吐いて会長さんを見る。顔を顰めてイカレ帽子屋の方を向いている。

「…で、てめぇこそ誰だ?」

 会長さんは低い声をでイカレ帽子屋に問う。ううん、警戒してるなぁ。まあ、そりゃそうか。こんな危なそうな人がいたらねぇ。

「たかが人間が俺に質問すんじゃねぇよ」
「……はぁ?」
「君も人間でしょ、帽子屋」

 頭はイかれていても、人間であることに変わりはない。僕の言葉に会長さんは片眉をついと上げた。

「帽子屋……?」
「ん? 会長さん、帽子屋のこと、知っているの?」
「ルイス・キャロルの不思議の国のアリスに出てくる帽子屋なら、知ってるが」

 今度は僕が不思議がる番だった。何故ここでアリスの名前が出てくるんだろう?
 首を傾げていると、会長さんははっとした顔で僕たちを見る。

「…アリス、か」
「…え?」

 アリスが、なんなんだろう。何でアリスを知っているの? 何で知ったような口振りでアリスの名を口にするの? 何で──。

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