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 蟀谷を押さえながら帽子野郎を睨むと、少し離れていても分かる、真っ赤な舌が口から覗いた。そしてすっと手が懐に入り――そうなところよ、一瞬目を細めた後、その腕を掴んだ。何となくだが、顔が強張っているような気がする。

「…おい、お前ら、ここから離れろ」

 俺は周りの奴らにそう告げた。何故? という顔をしている奴らに小さく舌打ちし、黙ったまま周りを見回す。俺の顔を見た奴らはすぐに顔を引き攣らせてこくこくと頷くと、足早に去って行った。一人残らず去ったのを確認し、再びチェシャ猫たちに視線を向ける。
 ――あの帽子野郎は、危険だ。
 直感で、そう思った。では、あの男と知り合いだというチェシャ猫も……いや、あいつは帽子野郎を監視して何か行動を起こそうとするたびに阻止しているようにも見える。
 俺は警戒しながら奴らに近づく。一歩一歩近づくたびに、空気が重くなっているような気がした。俺を見るチェシャ猫が、軽快に手を上げた。

「やあ、会長さん」

 一つ頷くだけにして、俺は帽子屋を観察した。この学園では間違いなく騒がれるであろう容姿だ。はっと息を飲むほど整った顔立ちだが、瞳は氷のように冷たい。服装は真っ黒なハットに大きな色とりどりの羽が付いている以外は、割と普通だ。

「…こいつぁ、誰だ?」

 じろりと睨まれ、不覚にも一歩後退ってしまった。ふっと嘲笑うような息が耳に届いた。

「カイチョーさんだよ」
「ふーん」

 どうでも良さそうに返事をする帽子野郎は繋ぎっぱなしだった手をばっと話してチェシャ猫の腰を抱いた。

「おい、クソネコ。ご主人様以外に尻尾振るたぁ、いい度胸じゃねえか。あぁん?」
「……振った覚え、ないんだけどな」

 俺も振られた覚えがない。
 ……で、こいつらの関係性は一体なんだ? ご主人? 猫? ……わけがわからねえ。

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