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『引き続き、見張ります』
「ああ、――……待て」
『はい?』

 俺は今しがた淹れたばかりのコーヒーと、書類が山積みされたデスクを見遣る。ふむ、と少し考えて……それらすべてを一旦頭の隅に追いやった。

「今、どこにいる」
『え? ええと、第一広場です。あの、会長様、もしかして――』
「ああ、そこに行く。移動したらすぐに連絡しろ」

 南城が何かを言う前に電話を切る。俺は携帯をズボンのポケットに乱暴に押し込むと、生徒会室を飛び出した。











 奴らは直ぐに見つかった。目立つし、騒ぎの原因となっているからな。俺に気付いた数人が声を上げるが、殆どがあの二人に注目して、俺に気づくことはなかった。

「おい」

 俺は目に入った奴に声をかける。振り返ったそいつは目を見開いた。頭痛のせいもあって、不機嫌面かもしれないが、仕方ない。

「か、会長様!?」
「……あの、帽子の男は何もんだ」
「い、いえ、あの…俺もさっき来たばかりで」

 チッと舌打ちすると、目の前の男がひいっと情けない悲鳴を上げた。俺はそれを聞きながらチェシャ猫を見る。すると、なんと、目が合った。驚いて目を見開く俺と反対に、チェシャ猫はにいっと笑った。そして帽子の男に繋いだ手を引っ張られ、視線はそっちに移った。ゆらゆらと尻尾(まるで本物)が揺れる。帽子の男は俺を見て、口を歪めた。それは歪な笑みだった。チェシャ猫の後頭部を荒い動作で鷲掴むと、チェシャ猫の首に――噛み付いた。黄色い声がそこかしこから聞こえる。同時に俺の頭痛は酷くなった。

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