頭痛の要因(泣き面に蜂)

(side:尋)







 妙な噂が耳に入った。奇抜な男が校内を彷徨いているというものだ。どうやってこの学園のガチガチに固められたセキュリティを抜けて侵入したというのか。そんなハズないだろうと思いながら仕事を再開する。しかし、再び俺の親衛隊から送られてきたメールの内容に眉を顰める。
 チェシャ猫――誰が聞いても分かる偽名を名乗っているそいつ――が、その不審者と一緒に歩いているという内容だ。あの男がその不審者を招き入れたという可能性は高い。

「くそ…」

 まず、あの男は一体何者なんだ。あの耳は何だ。偽物にしては――リアルすぎる、と思う。そして奴は何を考えているのか全く分からない。軽蔑したような顔になったかと思えば、酷く楽しそうな顔をする。性格の悪いヤローかと思ったら、俺を保健室まで運びやがる。謎だ。謎すぎる。
 つーか、今あんな奴のこと考えてる暇なんかねえ。この山のようにある書類を片付けなければならない。今日も部屋に帰れねえかもしれないな…。
 ――そういえば。
 俺は書類を手に取って、ふと思い出す。リコールの話をした時、あいつのそれまで飄々とした顔が、一瞬強張った。あれは一体なんだったんだろうか。あいつに、なにかしらのトラウマがある……?

「……って、だからなんで俺はあいつのことを考えてんだ」

 カズマのことならまだしも、あいつ。がしがしと髪を掻き混ぜて頭の中から奴を追い出す。…が、モヤモヤとしたものが残り、俺は溜息を吐いた。仕方なく休憩を取ろうと立ち上がる。飲み物を淹れるのは琉生の仕事だった。最初はどういうふうに淹れるのか分からなかったが、ここ数日ですっかり手馴れてしまった。
 俺は携帯を取り出し、自分の親衛隊隊長に着信をかける。何コール目かで、相手が出た。

『はい、南城です』
「さっきのメールのことだが」
『はい。まだあのチェシャ猫は謎の男と一緒にいます。二人は親しいように見えます』
「…親しいように見える?」
『手を繋いでるのですが…雰囲気がなんというか…ピリピリしていて』

 仲が悪いようにも見えます。南城のその言葉に眉間に皺が寄る。
 ……謎だ。

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