再会と混乱(久闊を叙する)

 意識が浮上し、目を開けた。カーテンの隙間から差してくる日差しに目を細め、一つ欠伸を漏らして起き上がる。悪夢でも見ていたのか、少し汗を掻いていた。昨日、会長さんが言ったあの言葉が脳裏に貼り付いて離れない。
 ――リコール。きっと僕が考える程のものではないだろう。それは会長さんの様子から見て取れた。でも、この言葉はやっぱり僕らにとって……。
 あの後、何も言わずに保健室を去ってしまったから会長さん不審に思っただろうなあ…。まあ、気にしても仕方ない。僕は乱れた髪を手櫛で整えてベッドから下りた。













 朝食を済ませた後、紅茶を飲みながらモトヤは何か言いたげに僕を見てくる。けど、僕は気づかないフリをした。どれだけ信頼していても何でも話すなんてことはしたくない。僕が話したいと思ったことを話すだけだ。暫くするとモトヤは諦めたようで、少しだけ申し訳なく思ったけど、やっぱり口は開かなかった。
 呼び鈴が鳴る。モトヤは動かない。僕は、ここを訪ねてくるのが誰かが気になり、立ち上がってドアを開けた。扉の前にいた人物に、おや、と目を丸くする。

「りゅーいちくん」
「お前、携帯持ってんのか」
「携帯? ――ああ、うん。持ってるけど」

 未だに良く分からないから結局放っちゃっているんだけどね。僕はそれがどうかした、と首を傾げると不機嫌そうな顔で手を出してくる。うん?

「貸せ」
「えーと? 何をするつもりなの?」
「いいから貸せっつってんだろ!」
「? じゃあちょっと待っててね」

 携帯を持って直ぐに戻ってくると、ひったくるようにそれを奪われた。じいっと見ていると少し居心地悪そうに顔を顰めて、そのまま携帯に視線を落とす。そして僕のとは違う見た目の――恐らく、りゅーいちくんの携帯と合わせ、何か操作している。何をしているんだろう。興味津々に覗くと、メーターが溜まり、送信しましたの文字。

「おらよ」
「何をしていたの?」
「赤外線」
「せきがいせん?」

 知らない言葉だ。僕はふうんと答えて、携帯を受け取る。

「そ、そんでよ…」

 急に顔を赤らめたかと思うと、僕を見つめ、意を決したように口を開く。
 その時だった。小さな爆発音が聞こえ、僕とりゅーいちくんは辺りを見回す。一体今度は何が起こるのか。わくわくと心を躍らせていると、ぐいっと首に手が回った。香ってくる匂いに、ぞくりと震える。この、匂いは――。

「よぉ、チェシャ。チョー会いたかったぜ?」

 漆黒の髪を垂らして笑うイカレ男の登場だった。

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