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「おい、テメェ…どっか行けよ」

 眉間に皺を寄せている会長さんに笑顔を向ける。

「やだよ」
「……っテメェ…!」

 がばっと勢いよく起き上がると、会長さんは頭を押さえた。僕は少し身を乗り出して覗いて見た。何だか体調が悪そうだ。ゆらゆらと尻尾を揺らして眺めていると、ぐらりと体が傾く。

「あ」

 ぱたり。
 力なく倒れた彼を目を丸くして見る。うーんと…? どうしたんだろう、彼は。寝たわけじゃないだろうし…気絶? 僕は周囲を見渡す。こんな時に限って人影はない。りゅーいちくんたちも、もう戻ってしまったようだ。
 ……えー、僕がなんとかしないといけないのかな。別に会長さんに興味なんてないし、僕が助ける義理もない。このまま放置したっていい。

「……あれ、この匂い…」

 先ほどより体を乗り出して匂いがしてくるところを探していると、どうやら匂いは会長さんから発せられているらしい。焼き菓子のいい匂いだ。会長さん自体から香ってくるわけじゃないだろうし…。
 そこで僕はにやりと笑う。取り敢えず、お菓子を頂こう。そして恩を売っておくのも悪くない。木から飛び降りて会長さんの体に鼻を近づける。どこにあるんだろう。ここかな、とポケットに突っ込むとビンゴ。中から小さなマドレーヌが出てきた。直ぐにマドレーヌを仕舞って会長さんの肩に手を回して起き上がらせる。顔を覗くと、目の隈を発見した。疲れで倒れたのか知らないけど、態々僕の前で倒れないで欲しかったな…。
 はあと溜息を吐いて歩き出す。……若干会長さんの足が引きずられてるけどいいよね。
 怪我をした時に行く保健室という場所を思い出しながら、これからのことを考えて笑みを浮かべた。









「よいしょっと」

 真っ白のドアを開けると、中も白かった。ベッドに会長さんを投げて寝かせる。

「……っ!?」

 ボフンという音と共に会長さんの体がびくりと動く。起きたらしい。僕はにやにやとしながら会長さんが頭を押さえてのろのろ起き上がるのを眺めた。

「ってぇ…。ここは――…は?」

 会長さんはキョロキョロと辺りを見渡し、僕と目が合ったところで切れ長の目を丸くする。

「な、なんでテメェが……。いや、…。おい、俺を運んだのはお前か」「うん、そうなるかな」
「……そうか。非常に不本意だが、礼を言う。……助かった」

 素直に頭を下げたその姿は、記憶にある(とは言ってもあまり覚えてないけど)会長さんよりもずっと弱々しく見えた。

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