一体一(玉に瑕)




「りゅーいちくん、よかったね」

 にまりと笑うと照れているのか、顔を逸らされた。

「…う、うっせえ」
「……カス」

 隣でボソリと呟くモトヤ。勿論それは僕を間に挟んでいてもバッチリ聞こえる声量で、りゅーいちくんは直ぐさまモトヤに牙を向く。

「おいテメェ今なんつった!」

 そう言って目をギラギラさせてモトヤを睨んだ。モトヤはそんなりゅーいちくんを一瞥して僕の手を引っ張り歩いていく。
 りゅーいちくんが後ろでモトヤに罵声を飛ばしているのを聞きながら、僕は笑みを浮かべた。
 あの後、りゅーいちくんはクラスの皆に頭を下げた。僕が強制したわけじゃないよ、言っておくけど。自分からね。今までのこと、悪かったって。皆暫く驚いて目を見開いていたけど、仕方ないなって様子で受け入れていた。お人好しだなって思うけど、嫌いじゃないよ、そういうのってさ。
 それで、今は寮に向かっている所なんだけど、モトヤが今まで以上にベッタリくっ付いてきて正直邪魔だ。りゅーいちくんが傍にいるからかもしれない。二人は仲が悪いみたいだし。

「…ん?」

 モトヤ、と声を掛けるとピタリと止まる足。不思議そうに僕を見るモトヤの視線を無視してあるものを見つめた。――あれは…。

「おい、どうした?」

 りゅーいちくんも訝しげに首を傾げる。
 窓の下に見えるのは、どこかで見たような顔の人が寝転がっている姿。誰だっけ、と思い出していると、りゅーいちくんが、げ、と嫌そうな声を出した。

「堺…」
「さかい?」
「会長」

 会長……ああ、カズマのことを好きな人か。ふぅん…で、あそこで何をやっているんだろう? じいっと見ていると、ふいに会長さんが上を向いて視線が合った。向こうは驚いたようで、目を見開いていた。僕はにやりと笑って窓に手をかける。ガラリと開け、足を縁に乗せると、後ろで焦ったような声が聞こえた。

「おい馬鹿、何やって――」
「ごめん、先に帰っておいて」

 笑みを残し、僕は窓から飛び降りた。









 すとん、と着地すると、会長さんは唖然として僕を見ていた。頭に草が乗っていることも含め、その間抜けな姿に笑みを漏らす。ハッとすると、鋭い目で僕を睨んだ。

「…何の用だ」
「特に用はないよ」
「……は?」

 再びぽかんとする顔。僕は会長さんの傍にあった木に上り、太い枝に腰掛ける。…うん、中々の居心地。
 上を向いて窓から見えるりゅーいちくんたち(顔が険しい)に手を振ってみると、溜息を吐かれた。

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