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「へえ? 俺ねえ…」

 キヒ、と笑うのは帽子屋さん。何かを企んでそうな笑みだ。
 何でよりにもよって帽子屋さんなんだ……!? 帽子屋さんと女王様以外は納得いかないという表情でιさんを見る。女王様の呆れ顔を見る限り、知っていたんだろう。
 ……っていうか、一番納得がいかないのは俺なんやけども。帽子屋さんと一緒にとか命幾つあっても足りない気がする。

「すみませんが、変更することはできません。……まあ、ずっと向こうにいることは不可能ですので、七日間の内に連れ戻すことができないのであれば、一旦戻ってきて、次は他の方に行って貰うことになります」
「あ、の…その七日間、俺たちはどこで宿を取れば……?」
「――ああ、宿なら手配してますのでご安心を」

 俺はほっとして息を吐いた。野宿は流石に嫌やからな。しかも帽子屋さんを野放しにするのも酷く不安やし。

「では、皆様、明日再びこちらに集合してください」

 恭しく礼をすると、一瞬にして姿を消した。俺たちは呆然とその姿を見送り、それぞれ顔を見合わせた。

「……おい、トランプ」
「な、なんや?」

 ヤマネがギロリと睨む。鋭い目が未だに少し苦手で、俺は若干顔を引き攣らせる。

「……あいつのこと、頼んだぞ」

 俺は驚いてまじまじとヤマネを見てしまった。ヤマネにこんなに弱った姿で頼まれ事をされたのは初めてのことや。こんな顔をさせるのはチェシャしかいない。俺は頷いた。

「帽子屋、テメェも…問題は起こすなよ」

 帽子屋さんは俺たちを見て、ふんっと鼻で笑って背を向けた。……心配しか残らない。
 隣で溜息を吐いているのが聞こえ、俺は苦笑した。










「明日、か……」

 呟いたその声は、今にも消えそうなほど小さな声だった。体が小刻みに震える。――緊張か、恐怖か。きっとどちらもだろう。帽子屋さんと一緒だから、という理由もありそうだが、もっとそれ以上にチェシャに会うことが――。
 ごろりと寝返りを打つ。月の光が入ってぼんやりと部屋を照らしている。そして視界に入った妙ちくりんな置物。チェシャが嫌がらせで贈ってきた物――でもチェシャからのプレゼントってことで酷く喜んだのを覚えている――だ。懐かしいな、と顔を緩ませる。体の震えは止まっていた。
 俺は目を閉じて闇に身を投じる。

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