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「あー! チェシャ!」

 聞き慣れた――カズマの声が響いた。猫野郎がカズマに視線を遣るのを追って俺も見る。……な、何でこんな人気のないところに来たんだ? これからこいつに色んなことを訊こうと……今の無し。

「カズマ、どうしたの?」

 笑顔を浮かべて走り寄ってくる猫野郎を見てカズマが笑った。つっても口しか見えねえけど。

「俺さ、これから生徒会室行くんだ! チェシャも行こうぜ!」

 待て。何故こいつを連れて行こうとする。…ていうか、あれ、カズマってこんなに声煩かったか…? それに、見慣れたこの姿も、初めてカズマを見た時と同じように不快感しか浮かばない。それほどまでに自分の中でカズマに対しての感情が冷めているのかと驚いた。
 面白いことが好きらしいこいつは、誘いに乗って行くんではないだろうか。それは不味い。生徒会の奴らが万が一にでもこいつに興味を持ったら…。

「うーん、今回は遠慮しておこうかな」

 意外にも猫野郎は誘いを断った。カズマは不満そうに顔を膨らましている。…先日までこれが可愛いと思っていた俺を記憶から抹消したい。

「何でだよ! 親友だろ!」

 親友って…会ってまだ数日しか経ってなくね? そんな安いモンだっけ、友情って。まあ俺も人のことは言えないが。かなり短い時間でカズマ以上の感情を持っちまったし…。

「ごめんね、僕の親友は別にいるんだ」
「えっ! 誰だよ! 会わせてくれ!」
「それは無理かな」
「何で!?」

 取り敢えず落ち着こうぜ、カズマ…。それにしても、親友…ねえ。やっぱりこいつと性格が似た奴なんだろうか。それとも…俺に似てるって奴?

「……遠いところにいるから」

 そう言って笑う猫野郎の顔は、どこか悲しそうだった。その顔を直視して心臓を鷲掴みされたような、苦しい感情が俺を襲った。

「それよりも、行かなくていいの? 生徒会の人心配してるんじゃない?」
「チェシャも…」
「僕は用事があるから、また誘ってよ」
「……むー…。じゃあ次は絶対だからな!」
「うん、またね。さて、教室に戻ろうか、りゅーいちくん?」

 カズマの後姿を見送った後、ニッと悪戯っぽく笑った猫野郎は歩き出す。俺の手を引いて――って。ななななな、何で…! っつーか凄ぇ自然に俺の手を握りやがったんだけどこいつ!
 顔に熱が集まるのが分かり、恥ずかしくて仕方なかったが、俺は手を払わなかった。

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