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 柔らかい、何てぼんやりと思ったが、自分の行動から我に返って慌てて肩を掴み顔を離す。一瞬ぽかんと間抜けな顔で俺を見上げた猫野郎は、ふ、と思わず漏れてしまったという表情で笑った。う――、どきりとしたのは勘違いと思いたい。つか思う。
 しかし、何で笑ったんだ、と疑問に思ったが、それよりも先にすべきことがある。

「わ、悪ぃ…、その…」

 恋仲でもない、しかも同性からのキスなんて嫌がらせにも程があるだろう。こいつはここに染まってるわけでもないんだし。
 プライドが邪魔をして声が小さくなったが、しっかりと届いたようだ。何故か更に笑みを深くする。それは馬鹿にするようなものではなく、どこか懐かしんでいるようなものだった。何がこいつをこんな表情にするのかを知りたい。いやいや待て。知ってどうする、俺。

「そういうところ、似てるなぁ」
「…は?」
「僕がこの前まで住んでいた所にね、キミと似たような子がいるんだ」

 笑みを向けられるのは別にいいとしても、似てると言われていい気はしない。そいつと俺を重ねて見てるってことだろ。ムカムカと気持ち悪い苛立ちが胸を占めた。こんな、まるで嫉妬するような感情を抱くのは可笑しい。しかし、体は俺の意思なんか無視して苛々が更に増す。

「そ、そいつのこと好きなのかよ?」

 精一杯の馬鹿にした顔を作って笑うと、初めて柔らかく、そしてにっこりと笑った。

「好きだよ」

 ズキ――、軋んだ音が自分の中で響いた。無性に猫野郎の好きな奴を殴りたくなる衝動に駆られ、ぐっと拳を握る。
 猫野郎は一度そんな俺に首を傾げてから、もう一度笑った。

「あ、でもりゅーいちくんも好きだよ」
「はっ!?」

 なななななに言ってんだこいつ!? 馬鹿じゃねえの! そんなん言われて俺が嬉しがると思って――……って嬉しいと思ったじゃねえか! 俺も馬鹿か!
 かああと顔に熱が集中し、自分が猫野郎に向ける感情にもう嘘が吐けなくなった。カズマを好きだった時よりも感情が左右されるっつーか…振り回されるっつーか…。

「ん? どうしたの、顔赤いけど?」
「うっせぇ黙れ! って顔近っ!」

 いつの間に顔を近づけたのか、ニヤニヤと揶揄うような笑みがすぐ目の前にあった。

「うん、その反応いいね」「黙れっつってんだろうが!」

 恥ずかしすぎて消えたくなったが、楽しそうに笑っているこいつを見るのも、わ、悪くねーな、うん…。

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