顔の熱が証明するもの(一事が万事)



(side:隆一)





 お、俺は一体何してんだ!?
 我に返った時には、猫野郎の腕を掴んで歩いていた。こいつと橘がどういう関係だろうと別に俺には関係のないことなのに、猫野郎と橘が顔を近づけた時、もやもやとした。……俺はどうしたっていうんだ。こんなにモヤモヤして、もっと知りたいだなんて感情――カズマにだってさえ抱いたことないのに。

「えーと、りゅーいちくん?」

 大人しく俺に手を引かれている奴は困惑したような声を出した。どこか不安そうな声は初めて聞き、どくりと心臓が跳ねた。…や、べえ、俺、変だ。

「僕、そろそろ戻りたいんだけど」

 今度は溜息混じりに呟かれ、足を止めて振り返る。俺より少し低い身長に整った笑みを浮かべた顔立ち、ピンと立った人間にある筈のない猫耳にゆらゆらと揺れる尻尾。俺はふとその尻尾に触れてみたくなった。
 手を伸ばすと、驚いたのかびくりと震えた体。それに少し気を良くして知らず内に笑みを浮かべながらさらりと尻尾を撫でる。思ったよりもフサフサしてるっていうか……本物の毛のような…。

「……っん、ちょ、っと」
「……!?」

 きゅっと悩ましげに眉を顰め、艶かしい声を出して俺を上目遣いに見上げる姿に尻尾を握った手からかあっと全身に熱が伝わり、どくどくと心臓が暴れだす。慌てて感触がリアルすぎる尻尾から手を放す。な、何つー声出してんだ、こいつ! それにその顔……。あまりの反応や感触のリアルさに、まさか、これって本物なのか…? と非現実なことを思った。耳を触れば、どうなるのだろう。もっと尻尾を撫で回したら――先日まで嫌いだった猫野郎に、俺は欲情していた。
 い、いや、まさか、俺がこんな奴に…な? うん、勘違いだ、この顔の熱も、心臓の音も、むずむずとした痒さも――全部、勘違いだ。
 暗示をかけるように必死に体を落ち着かせる。しかし、顔はいつまで経っても熱を帯びたままだ。

「…さっきから変だよ、りゅーいちくん」
「う、うっせぇ!」

 怪訝な表情にムッとした。…んなの俺が一番知ってんだよ馬鹿。思わず怒鳴ると猫野郎は不思議そうに俺を見て、まあいいかと背を向けようとした。行ってしまう――考えるより先に、体が動いていて、気がつけば猫野郎の腕を掴んで引き寄せ、口に自分の唇を重ねていた。

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