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「啓太超悪い顔ー」
「お前も人のこと言えないけどな」
「…って、めぇら……!」
ギロリと恐ろしい顔で睨むが、何も反応を示さない二人。「でさあ、」ケイタが僕を見てにこりと笑む。もう興味もないようだ。僕はチラリとりゅーいちくんを見て、直ぐに逸らす。
――人の怒る顔は好きでも、傷ついた顔は嫌いだ。だって、全然面白くないじゃない。
頬杖を付く。そして反対の手でネックレスの指輪をぎゅっと握った。頭に浮かぶワンダーランドの住人たち。そんなに経っていない筈なのに酷く懐かしく感じて、目を閉じる。
ヤマネが一瞬浮かんで、それはりゅーいちくんへと姿を変える。どろりとした気持ち悪い物が染み渡った。
「チェシャ?」
「ねこ、」
ケイタが僕に声を掛ける。そこで漸く目を開けて、いきなり入ってきた光に少し目を細める。
ずっと黙ってりゅーいちくんを睨んでいたモトヤも、ケイタの声でこっちを向いた。そして僕の様子に首を傾げる。
僕は立ち上がった。
「りゅーいちくん」
ちょっと僕に付いて来て。
僕の言葉に顔を歪めたりゅーいちくんだったけれど、舌打ちをして大人しく付いてきた。モトヤはずっと僕を心配していたけど、それを笑みで交わす。納得していない様子でも最後には渋々頷いていた。
「……んだよ」
教室から少し離れた廊下で立ち止まると、りゅーいちくんが後ろで小さく呟く。僕は振り向いて、胡散臭いであろう笑みを貼り付けて言い放った。
「その顔、やめてくれない?」
「…あぁ?」
「凄く、不愉快だよ」
「…なっ…、んでテメェなんかにんなこと言われなきゃなんねえんだよ!」
「だから、不愉快なんだって。そう思ってるのは僕だけじゃないと思うよ。ケイタだって、マサキだって、きっとモトヤも」
「うっ…うっせぇ!」
拳が飛んできた。僕は慌てることもなく、冷静に彼の拳を手の平で受け止めた。信じられないと目を見開くりゅーいちくん。
「キミは本当にこのままでいいの?」
「は……?」
「何だか僕には迷ってるように見えるけどね。それに、無意識に期待してるんじゃない? そんな傷ついた顔をして構ってくれることを」
僕は苦しくなって、笑うのを止めた。
関わるべきじゃなかった。ヤマネに似ている彼だからつい情が湧いてしまったのかもしれない。
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