りゅーいちくんと僕(頭の上の蝿を追え)





「チェシャ、さっき絡まれてたろ」
「ん? 絡まれてた?」
「あのモジャ毛とその取り巻き共」
「モジャ……ああ、カズマのこと?」

 教室に戻ると、少しニヤついた顔でケイタが話しかけてきた。僕が席に座ると、マサキも近づいてくる。

「見てたぜー。よくあんなの相手に出来るよなぁ。あいつ人の話し聞かねーじゃん」
「分かる分かる。あの取り巻きもブサ専っていうか、趣味悪すぎるよな」

 ブサ専ってなんだろう。そう思いながら笑みを浮かべる。

「うーん…。別に相手してるわけじゃないよ。それに勝手に近づいてくるんだよね」
「え、好かれてんの? マジウケるんですけど」
「僕好かれてるの? カズマってば趣味悪いなー」
「いや、自分で言っちゃ駄目でしょそれー。俺は好きだよー?」
「俺もだ! 面白いし格好いいしな!」
「お、れ、一番!」
「ええ? 有り難う、僕も好きだよ」

 俺も俺もと言ってくれる皆に作った笑みを崩して、普通の笑みを浮かべた。皆良い人だよね、こんな僕のこと好きって言ってくれるなんて。
 モトヤが後ろから僕をぎゅっと抱き締める。

「好き、一番」
「うん、有り難う」

 さっき聞いたよそれ。苦笑してモトヤを見上げる。蕩けるような顔で見つめられ、ぎくりとする。この顔は、何だか見覚えがある。
 さっと視線を前に戻せば、目を丸くしているマサキとケイタ。マサキは舐めていた飴を噛み砕く。

「うわあー、凄い光景。こんな優しい顔した簪なんて初めて見たよー」

 その理由はモトヤに友達いなかったから、それを見る機会がなかっただけなんだろうけどね。それを伝えるのも何だか違うと思って、僕はそうなんだとだけ呟いた。

「んで、お前は何してんの、モモオ?」
「だっ、誰がモモオだ! シラオだっつってんだろうが!」

 ああ、やっぱりいたんだ、りゅーいちくん。視線は感じてたけど、態々話しかける気も起きなくて無視してたんだけど。あまりにも何も言わないからどこかに行ったのかと思った。

「はいはい、それでー、何でこっちじっと見てんのかなあ、モモオー」
「だからっ…〜! ……ッチ、んでもねぇよ別に!」
「じゃあどっか行けば? あのモジャ毛のとことか」

 ケイタが蔑んだ目でりゅーいちくんを見た。ぐっと押し黙るりゅーいちくんに、今度はマサキが嘲笑する。

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