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 重々しいドアの開く音と共に僕らに集まっていた視線がドアの方に移る。男にしては高い声が響いて食堂が沸いた。

「カズマ!」

 あー、うん、まあ来ちゃうよね。僕は一つ溜息を漏らしてりゅーいちくんを見上げる。また僕の方を見ていたらしく、視線が合った。りゅーいちくんは一瞬体を硬直させて慌てたように僕から視線を外した。そしてこっちに駆け寄って来る人物を射殺さんとばかりに睨んでいる。

「なあ、チェシャ! 撫でろって!」

 ……えっと、何で僕に拘るのかな? 今笑顔で駆け寄って来ている存在に気づいてあげなよ。そしてりゅーいちくんはさっさとカズマを連れて行ってってば。

「カズマ、またそんな奴に…っ」
「え? あっ、琉生じゃねえか!」

 え、今気づいたの。周りを見なさ過ぎじゃない? 罵倒だって飛び交っているし、その前から嬌声とかも聞こえてたのになあ。あ、もしかして耳が悪いのかな? だから声が大きいとか…。

「貴方は一体何なんですか。カズマに構わないでください」
「はいはい、ごめんね」
「…っく! 行きますよ、カズマ!」

 僕から構ったわけじゃないんだけど。まあ別にいいか。そう思って笑うと、綺麗な顔を嫌悪に歪めてカズマの手首を掴んだ。これで漸く離れて行くと小さく笑みを浮かべると、しかしカズマはお気に召さなかったようだ。

「おい放せよ! 俺はチェシャと食べたいんだ!」

 っていうか、その話さっき終わらなかった? 僕の話聞いてなかったのかな、もしかして。まあいいけどさ。何だか知れば知るほど今その瞬間だけを大切にしてます! みたいな生き方してるよね。数え切れないくらい生きてる僕らにとっては一瞬なんてどうでもいいものに等しい。だけど、それに対して人間って奥深い生き物かもしれない。少ない人生を精一杯生活する生き様とか、凄く観察するの楽しそうじゃないか。

「そんな変な奴より僕と一緒に食べましょうよ。席なら役員席がありますから」
「そうだよぉ〜。カズくん、そんなキチガイと一緒にいたら変になっちゃうよー」

 いつの間に来たのか、茶髪の男がカズマに抱きついて僕を睨んだ。……そういえば、キチガイってなんだろう。昨日も言われた気がするけど、意味が分からない。後で調べてみようっと。
 それと、もう一つ分からない単語がある。

「役員席?」
「そりゃァあれだヨ。あの無駄にキラキラしてる席。役持ちだけが座れんだゼェ」
「ふーん…」

 詳しくは分からないけど、つまり僕は座っちゃ駄目な席ね。それだけで知ってればいいかな。興味ないし。
 っていうか、やっと口を開いたね、Y。さっきまでニヤニヤして傍観に徹しててちょっとイラッとした。

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