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「刺身だけじゃ足りないと思うぜェ」
「そっか…うーん、じゃあ、何にしよう」

 メニューを再び見つめる。……「漢字」が読めなくてさっぱりだ。いや、ある程度は読めるんだけど、応用が全然利かない。取り敢えず、刺身は完璧に覚えたよ、うん。
 さて、……どうしようかな。Yに訊けば一発だろうけど、頼るのも何だか嫌だ。僕はじいっと眺めて、そして顔を一度上げる。

「ヤオトとモトヤは何にするの?」

 これで何とか探れれば問題ないんだけど。

「パスタだ」
「……カレー」

 全く参考にならなかった。モトヤは兎も角、Yは絶対に態とだろう。僕は睨むように見て笑うと、見たことある漢字を探した。…もうちょっとしっかり本を読んでおけばよかったと思っても、もう遅いんだから開き直るしかない。スクロールを続けていくと、肉という漢字を見つける。肉って、あれでしょ。動物の身の部分の。で、じゃがっていうのは良く分からないんだけど。…まあ、いいや。これにしよう。
 ボタンを押して、ニヤニヤとしたYに機械を渡す。機械を受け取ると、Yは迷いなくボタンを数回押した動作をして、今度はモトヤに差し出した。……ちょっと、早すぎない? パスタって言っても、それなりに種類あるだろうに。僕にかかった時間の何分かの一くらいで済ませたことに腹が立つ。
 モトヤも無事に注文を終えて、僕たちは他愛のない話をする。と言っても、モトヤは全然話してないけど。時々相槌を打つくらいで、殆どはYを睨んでいる。
 その時、食堂が悲鳴や罵倒で揺れた。僕は余りの煩さに少しだけ眉を顰めた。……うん、嫌な予感するよね。
 そんな僕の予感は、たいした時間も経たずに当たるのだった。

「あーっ、チェシャ!」

 …あれ、何だろう。この台詞、同じシチュエーションで聞いた覚えがあるよ。こういうの、デジャヴって言うんだっけ。
 モトヤを見ると、人を殺せそうなくらいの形相で只管にテーブルを見つめていた。Yはというと、まあ、いつも通りだ。寧ろ僕の顔にさっきよりも機嫌がよさそうだ。
 それにしても、この声カズマだよね。ということは、さっきの悲鳴とか罵倒もカズマ関連の可能性が高い。それはそうとして、見つかるの早くない? これだけ人が多いのに。やっぱり、僕目立つのかな。
 真っ黒い固体(カズマ)が近づいてきて、モトヤの眉間の皺がより深くなる。

「なあっ、一緒に食べようぜ!」

 いやいや、周りの席全部埋まってるんだけど?

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