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「なんだァ? 犬っころも行くのか」
「ちょっと、ヤオト」

 似てるとは言え、犬って言うのはどうかと思うよ。まあ、分かってて言っているんだろうけど。モトヤは更に気分を害したらしく、唸りながら僕の背に隠れる。しっかりと風を掴んで、放しそうにない。
 未だに腕を掴んでいる手を軽く振ってみると、Yは小さく笑って手を放した。

「……取り敢えず、行こうよ」
「だなァ」
「モトヤ、ほら、離れて」
「う……」

 モトヤの手をポンポンと叩くと、渋々といった様子で僕から離れた。…離れたっていっても、ちょっとだけど。ニヤニヤとしたYを一瞥し、僕は足を踏み出した。













 食堂はやはり、混雑していた。若干の鬱陶しさを感じながら、僕はYに付いて行く。そして僕の後ろを縮こまりながら付いて来ていた。
 チラホラと見える空席を探し、歩いていく。

「うーん、中々空いてないね」
「だナ」

 Yは僕の言葉に頷いて、左右をキョロキョロと見渡す。その間にも、周りは僕たちを見てなにやらこそこそと話している。聞き取れた範囲で、僕のこの耳だとか尻尾だとか、Yに漏れる感嘆の声だとか、そしてモトヤのことだ。珍しいらしく、不躾な視線が投げつけられる。振り返ってモトヤを見ると、居心地悪そうに下を向いていた。

「モトヤ、大丈夫?」
「…ん」
「人多いから、逸れないように気をつけてね」
「手…いい?」

 手、というのは、手を握ってもいいか、ってことかな。僕は了承の意を込めて頷く。すると、顔を明るくさせて僕の手を握った。そうすると、周りで悲鳴に似た声が響く。

「簪様とチェシャ様が…!」
「簪様が笑ったー! 素敵ー!」

 ……ん? ああ、何だ。僕の名前、もう広まっているんだ。声の聞こえた方を見つめてくすりと笑うと、また声が大きく響き、可愛らしい顔をした子たちは真っ赤に染まる。何これ、面白いなあ。

「あっ、あの!」
「――ん? 何かな?」

 周りを観察していると、近くにいた小さい子三人が僕に声をかけてきた。少しだけ体を丸めて首を傾げると、顔から湯気が出るほど赤くなり、わたわたと体を動かしている。

「もしかして、席をお探しでしょうか…!」
「もし良かったら、ここ…っ」

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