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「つーか俺は無視か!」

 りゅーいちくんは青筋を浮かべながら自分の額に当たったものを男に投げた。

「お、さんきゅ」

 それは男の右手によっていとも簡単にキャッチされ、りゅーいちくんは悔しそうに男を睨んだ。……当てたかったんだね。

「さて、お前確か、えーと」

 りゅーいちくんの額に当てたものには紙が何枚か挟まっていて、その紙をパラパラと捲る。目当てのものを見つけたのか、ん、と声を漏らした。

「チェシャ猫? ――何だ、この分かりやすい偽名は」

 偽名じゃないんだけどなあ、と、そう言おうとしたのをすんでのところで止めた。僕も漸く分かってきた。人間の名前は苗字と名前で構成されている。僕は苗字なんてないから不自然に思うのは当然だ。だけど、Yみたいに偽名を使うつもりは毛頭ない。だから人間たちが"チェシャ猫"を偽名だと思うのなら、それを利用するのに他ならない。

「いいじゃーん、猫クンは可愛いから」
「それのどこらへんがいいんだよ、五文字以内で答えろ」
「可愛い」
「よし」

 え、いいんだ。

「あっ、てか森は? 一限ってすーがくっしょ?」
「森先生はノイローゼだ」
「ノイローゼって何だ?」
「ノイがローゼなんだよ」

 自信満々に言い放った金髪の男に、先程質問した赤髪の男が首を傾げた。

「ローゼって何だ?」
「え」

 言葉に詰まる金髪。
 …そっか、ここまで頭が悪いのか。

「……あ、俺は担任のホストだ、宜しくな」
「いやお前館貳だろ!?」

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