僕とY(眉を読む)

「そいつは明日からここにの生徒だゼ」
「うわっ、ビビった! いきなり話しかけるなよな! お前、高萩だっけ! なあ、下の名前は何ていうんだ!?」
「いえっす、俺は高萩ダ。んで、ちょっとそいつに話があるかラサ」

 高萩と名乗る男は、茶色のデカいサングラスかけ金髪を高く結っていて、それは肩まであった。美形に見慣れている僕だけど、この男はまた別な意味で美形だった。
 それにしても今度は何だと見ていると高萩はのそのそと怠そうに歩いてくる。そして高萩は着いてこいよ、と僕の手を取って歩き出した(手を繋ぐ必要あるのかな)。カズマの質問は無視らしい。…うん、適切な判断だと思う。後ろで何やら喚いているが当然僕らは無視した。









 「まァ、一言言わせてもらうけど」カズマたちからちょっと離れた所まで行くと、彼は立ち止まってこう言った。

「巻き込んでわりィな」
「――何のこと?」

 首を傾げる。はて、僕はこの男と関わりはなかった筈だ。しかし、巻き込んだというからには、何かに巻き込まれたのだろう。いきなり知らない場所にいたことと関係あるだろうか。

「実はだなァ、俺Yっつーんだけど。あ、高萩ってのは偽名な。簡単に言えば俺はさァ、管理してる奴なのヨ」
「管理?」
「世界の。って、それじゃイマイチ分かんねェか。つまり"ココ"とお前の存在するべき世界"ワンダーランド"の秩序を守るべき存在なンだよ」

 僕はYと名乗る男をじっと見つめる。まさか別の世界があるなんて、そんなの信じられるはずがない。確かに見たことない場所だし、見たことない人と聞き覚えのない単語があるのは間違いない。しかし、それとこれとは別の話。見ず知らずの奴の言葉を信用なんてできない。

「信じてねェって顔ダナ」
「そう?」

 そんな顔してるつもりはないんだけどね。そこは少し驚いた。まさか早々に見破られるなんて。この男は人を見るのに長けているようだ。

「まっ、無理もねェカ」
「生憎僕の周りにはイカレた奴が幾らかいてね、易々と信じたら身が保たないんだ」
「ンじゃ、ここの説明をすっかね」

 僕の言葉にやれやれと肩を竦めたYはにやりと笑う。
 この男の言うことが本当なら全てを知っていることになるし、男の手に命を握られてるのも同然ってことだろうか? ――ってことは、僕がチェシャ猫であることも、アリスが迷い込んだのも、イカレコンビがイカレてることさえも必然なのかもしれなかった。何だかちょっと複雑な気分だ。まあ信じてはないんだけどさ。

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