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「――ぃ゛っ、でぇぇぇ!」

 男が投げだのは長方形で薄っぺらい堅いもののようだった。運悪く角に当たったらしく、痛そうに額を押さえて悶えている。その姿をみて失笑した。

「お前らなあ、俺のとこへ来いって伝えろって言っただろーが」

 言いながらドアから顔を出した、"大人の色気"を放っているのが「担任」らしい。ケイタは呆れたように眉間に皺を寄せ、片眉を上げた。……ていうか誰もりゅーいちくんの心配はしないんだね。ケイタとかテッタの時はもっと声があがってたはずなんだけど。え、もしかしてりゅーいちくんって友達いない感じ?

「結局自分が来てんじゃねえか」
「だって気になるじゃねえの。――猫耳と尻尾を生やしてる奴だぜ」

 ちらりとこっちを見てニヤリと笑ったので僕も笑い返した。男の言葉にケイタは目を見開いて僕を見た。

「え!? 生えてんのか、それ!?」
「生えるか馬鹿」
「何だそれ! ビジョンしてるぞ?」

「ビジョンって何だ?」誰かが疑問を口にした。

「えっと、ほら、あれだよ! 言ったことが正反対っていうか、」
「その説明はよくわからねえけど、多分それ矛盾な」
「似てる」
「似てねぇよ」

 ビジョンは未来像だ、と男は呆れたように頭を掻いた。

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