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「てった!」
「テメェ、てったを離せ!」

 僕が掴んでいる腕の持ち主はテッタというらしい。ちらりと横目でテッタという人物を見てみると悔しげに眉を顰めていた。飛び出て美形ではないけれど、やっぱり顔は整っている。ジロジロと顔を眺めながら笑むとと目をちょっと見開いて勢いよく逸らされた。その顔は後少し赤みを帯びている。馬鹿にされたと思って怒ったんだろう。
 そんなことを考えていると後ろに人の気配を感じた。振り返るとちょっと反応が遅れたみたいで、拳は目前に迫っていた。あ――当たりそう、と呑気に考えていたら、僕の前に影が出来た。
 ガツンという骨同士がぶつかり合った音に続いてガタガタと痛そうな音がする。どうやら、目の前にでてきた人物が殴りかかってきた男を蹴ったようだ。スラリと長い足が動くのを見た。上を見上げると、あれまぁ、僕の同室者さんじゃあないか。

「け、けったー!」
「かっ、簪がけったを蹴ったー!」

 ……ん? 駄洒落?
 ていうかテッタとケッタって似たような名前だなあ。すっかり力が抜けたテッタの腕を離す。一瞥すると青くなりながらもモトヤを睨んでいた。勇敢だねえ。

「ねこ、おそ、心配」

 因みにこれは猫が来るのが遅かったから心配したんだぜコノヤローって言ってるみたいだ。語尾はセルフだけど。

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