5

「思わないな」

 あっさりと否定を告げたレンに、僕は数回瞬きをする。

「そりゃあ信じないさ、うん、信じない。だけど、皆の前でお前の大事な大事な耳を力一杯引っ張ったらどうだ? ああ、誰か選抜して引っ張ってもらうのもいいな」
「――っ、」
「後はー、皆の前でその"耳"を取ってよと言ってみるとか? 分かるか、チェシャ。お前の正体をバラすのって、存外簡単で呆気ないんだよ」

 壁に打ち付けられた肩がズキズキと肩が痛んだ。僕は右肩をそっと押さえる。レンは言った。「ごめんな、痛かったか」そんなこと思ってもない癖によく言うよね。
 レンは腕時計に視線を落とし、次いで僕を見て何故か手を掴んだ。え、何で掴む必要があるんだ。僕は不満気にそいつを見上げるが、にこりの人の良さそうな笑みを浮かべるだけだった。

「自分の立場が分かっただろ? チェシャは俺に逆らえない。だから、俺が参加するのは決定事項だ」

 何故そこまでするのかよく分からないけど、弱みを握られているのは確かだ。僕は渋々と頷いた。

「分かった、勝手にするといいよ」
「おう! まあ安心しろよ。邪魔するったって、お前の行く手を塞いだり付き纏ったりするだけだからさ」
「…そう」

 ていうかそれが一番嫌なんだけど。どこに安心すればいいんだろうか。
 僕は溜息を吐きながら小さくレンに掴まれている腕を振った。……レンってば力強いな。

「よし、じゃあ行くか」
「……一つだけ訊いてもいい?」
「ん、何?」
「何で僕が猫人間だって思ったの?」

 レンはきょとん、と目を丸くした後、爽やかとは程遠いあくどい笑みを浮かべた。

「言っただろ、俺は神様なんだって」

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